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狐鬼 第一章

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「駅迄、送れなくてごめんね」

石階下
抱えて下りて来た、彼女の旅行用鞄を置きながら
申し訳なさそうに謝る彼にすずめは頭を振った

「ううん」
「私こそ行き成り来て、行き成り帰るなんて」

言葉が続かない
未だ、熱を持つ瞼を擦り彼女は項垂れた

行き成り泣くなんて絶対に変な奴だと思われている
下手すれば嫌われたかも知れない

其れも辛い

「迷惑だったよね、ごめんね」

穴があったら入りたい

心許無く触れる旅行用鞄の上部に
「のの字を」書き続ける彼女に吹き出しそうになる彼が言う

「ちどりの影響だよね」

「え?」

顔を上げ聞き返す彼女の顔を覗き込む
黒目勝ちの彼の目が細くなる

「そういう行動力、僕は好きだよ」

其の言葉
以前の内気な自分なら素直に喜んだ筈
以降も内気なのは変わらないけど、今は落ち込む一方だ

本当に嫌いにならない?

聞きたいけど聞けない

「あ、そうそう」

「用事がある」と、彼女と共に屋敷を後にした彼が
斜め掛けした鞄の中身を漁り始める

「はい、此れ」

そうして彼が差し出したのは、あの風鈴だ

「お土産」

彼女は一瞬、戸惑うも
前回のように彼に其の腕を掴まれる前に素直に受け取る

吊り糸を持てば
撫でる風に短冊が揺れ舌が外見に触れる

チリリ チリ、ン

何はともあれ綺麗な音だ
陽射しに光る、硝子風鈴を眩しそうに見詰める彼女に
彼はやんちゃそうな笑顔を向けて頷く

「元気出して、すずめ」

風鈴の音に劣らず心地良い声で
優しい言葉を掛ける彼に彼女は漸く微笑んだ

「うん、ありがと」

「じゃあ、僕はこっちだから」

「うん」

手を振り歩き出す彼を彼女は呼び止める

「たか」

「ん?」

眉を上げ振り返る彼に
彼女は肩掛け鞄の肩紐を両手でギュッと握り締める

そして勇気を出すが

「またね」

唯、其れだけの言葉が如何しても出ない

「ま、」

「ま?」

「ま、」

尚も言葉が出ない彼女に
「はいはい」と頷く彼がゆったりと優しい笑顔で答える

「またね、すずめ」

此れは約束だ
一方通行かも知れないけど約束は約束だ

大きく頷く彼女が歩き出す
彼は其の後ろ姿を暫くの間、見送っていた

ふと、頭上の木木が騒めく
葉擦れの音に混じり、微かな笑い声が響いてくる

甲高く、如何してか濁る声

「 そういう行動力 僕は好きだよ てかー? うっけけけ 」

嘲笑するように唇を歪める彼が、其の目を伏せる
再び、下衆な笑声を風が運ぶ

「 恋愛ごっこは御免だぜー 」

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫