狐鬼 第一章
離れ屋の榧風呂に肩迄、浸り
うっとりする、すずめは不本意ながらも一息吐く
身体的疲労が癒されていく感覚に微睡むも
頭の裏には鮮明な刺激が残っている
思えば大忙しな一日だった
小遣い片手に一路、此の田舎町迄来たのは良いが
炎天下の中、延延に続くかと思える石階を上り
漸く頂上に辿り着いたと思えば、あの不気味な森を抜ける羽目となる
湯舟の湯を両手の平で掬い、顔を拭う
零れる雫が軽やかな水音を立てる
そうして彼女は間違いに気付く
サラサラ サララ
横手の窓から風に鳴る、葉音がした
其の乾いた音に肩を竦める
未だ森は続いている
未だ自分は森の中にいる
チリリ ン
微かに風鈴の音色が響く
祭りに行く前
彼が元の場所、掃き出し窓の軒下に下げてくれた
けど、昼間感じた安堵感は既にない