狐鬼 第一章
屋敷の離れ座敷
家人も滅多に通らない渡り廊下の先、其の離れ座敷は在る
主に蔵書を所蔵している此処には
古往今来に於ける摩訶不思議な書物が山のように保管されている
偏に少女の母親が娘の能力を理解しよう、と世界中から蒐集した結果だ
ふと、鈍い音と共に離れ座敷の格子戸が引かれる
「ひばり、休みもしないで何してるの?」
祭りの後、姿を見せない娘を心配した母親が
散散、屋敷中を探し歩いて行き着いた先が此の離れ座敷だった
漸く見つけた少女は手を掛ける本棚から
誇り塗れの古書を次から次へと引っ張り出しては頁を捲るも放り出す
そんな、返事もしない娘を
恨めしそうに見遣る母親が大袈裟な咳払いをしながら呟く
「日陰干しした方が良いわね」
途端、本棚を漁っていた少女は糸が切れた操り人形のように
足元に積み重なる書物の上に座り込む
「狐鬼」
其の名を口にする少女の声は低い
「母さん、知ってる?」
尋ねられた母親は小鳥のように首を傾げ微笑んだ
「嫌だ」
「知ってるも何も子どもの頃、良く聞かせた御伽話じゃないの」
母親の言葉に少女はゆっくりと頷く
そうだ
御伽話の筈なのに
其れなのに