狐鬼 第一章
思い出したかのように神楽鈴の音が鳴り響く
見れば童子が二人、年配男性を引き連れ舞台下に姿を現す
間近で仰ぐ白狐の姿に暫し、言葉もなく立ち尽くす年配男性だったが
童子に促され、慌てて頭を下げる
舞台は勿論
舞台下と境内にも可也の高低差があるのか
出口付近に佇む、すずめの目にも其の光景が容易に窺えた
一体、此れから何が始めるのか
一呼吸置く、年配男性は上着の内衣嚢から白無地の和封筒を取り出す
揃える両手の指で持つ、和封筒を頭上高く掲げた瞬間
和封筒は瞬く間に燃え上がり、跡形もなく其の手から消え失せる
思わず仰け反り、左右の手を交互に見遣る年配男性を余所に
舞台上の巫女が手の平を上に向け、前へと差し出す
巫女が差し出す手の平を年配男性はじっと見詰める
案の定、其の手の平に狐火が灯ると年配男性目掛けて飛んで行く
月白色の炎は年配男性の胸元に当たると、其のまま吸い込まれる
分かっていた
分かっていたが年配男性は驚かずにはいられない
此れから起こる事は伝え聞いた事だ
自分自身、体験するのは初めてだ、と思う年配男性が巫女を仰ぎ見る
其の背後に座込む白狐が笑うかのように眼を細めた
突如、頭の中に浮かぶ文字に身体が震える
震える手で上着の内衣嚢を探り、何とか手帳を取り出す
覚束ない手付きで何とか開く
手帳の用紙に頭の中に浮かぶ文字が同様に浮かび上がる
「?!」
言葉もなく息を引く、年配男性に童子が答える
「狐様のお告げです」
其の幼い声に頷き、尚も頷き続ける年配男性は
矢張り、童子に促されながら頭を下げると舞台下から捌けて行く
何だ
此れは何だ
信仰的なモノなのか
宗教的なモノなのか
と、自問する彼女は
答えを求めて思わず、隣に立つ彼を見上げる
其の横顔は微笑んでいた
丸で、此の祭りを楽しんでいるかのように