狐鬼 第一章
緩やかに曲線を描く、参道
其の先は本堂かと思いきや二人の前に現れたのは三間一戸八脚門
開け放たれた、観音開きの木扉
左右の間には一般的にされる仁王像の代わりに
狐を象った石像が向き合い納まっていた
宛ら狛犬
此れが神狐様かあ、と右手の狐と睨め競中の彼女の手を取り
先を案内するように彼が山門を潜り抜ける
さり気ない、彼の行動に心臓が爆発しそうになるも
足を踏み入れた山門を越えた向こう側の光景に言葉を失った
目の前を行き交う、人人人
其の手に手燭灯を提げる、彼等は
正装に身を包み、高価な貴金属を纏った紳士淑女という印象だ
漸く、彼女は気が付く
今夜は「祭り」だ
だが、祭囃子も聞こえてなければ屋台も的屋もない
子どもの姿すら見当たらない
祭りに来た?学生で普段着姿の自分達は滑稽な程、場違いだ
「たか、祭りって?」
彼は返事をする代わりに前方に陣取る、舞台を見遣る
何なの、と足を踏み出し掛けた
彼女の視界に人人が提げる、手燭灯の灯が
月明かりに浮かび上がる舞台を囲むように集うのが見えた
目を凝らせば、正方形の舞台の四隅には火のない篝火台が置かれ
仰ぐ天井付近には幾重枚もの白い布が垂れている
軈て、何処とも無く鈴の音が響く
人人の視線が舞台に注がれた瞬間、一斉に手燭灯の灯が消えた
感嘆が漏れる
思わず、すずめは繋いだままの彼の手を握り締めた
其れが人為的なモノなのか、自然的なモノなのか
将又、超常的なモノなのかは分からない
唯
周囲を張り詰める緊張感、徐徐に鮮明になる鈴の音
感じた事のない異様な雰囲気に彼女は息を呑む