狐鬼 第一章
上も下もない漆黒の中、姿なき声共の話す声が響く
「 流石に 」
「 流石に社には近付けなかった 」
言いながら嗄れた低い声がくつくつ笑う
途端、嗄れた高い声が辺りを窺うように抑えた声で叱責する
「 勝手な真似を 」
「 勝手な真似をして如何 言い訳をするつもりだ 」
問い質しながら、嗄れた高い声は絶望する
「 言い訳等 」
「 言い訳等 通用しないぞ 」
嗄れた低い声が遮る
姿が視えたのならきっと、大袈裟に其の肩を竦めて見せただろう
「 巫女とはいえ 」
「 所詮 」
「 所詮 人間に仕える狐だ 」
「 高が知れてる 」
見下す口調で吐き捨てる声に、嗄れた高い声は口を噤む
知られなければいい
知られなければ、彼の機嫌を損ねる事はない
だが、知られない事は不可能だ