狐鬼 第一章
4
夜の帳が下りる森は一層、不気味さを増す
其れでも彼が傍にいるというだけで、こんなにも心強くなるのか
と、すずめは其の肩を眺める
早目に夕食を済まし早速、祭りへと出掛ける
彼が翳す角灯の灯りを頼りに二人は森の中を進んで行く
「薄気味悪い森かも知れないけど」
「何故か、僕は子どもの頃から気に入ってる」
案の定、月明かりも届かない闇夜を見上げる、彼が言う
確かに此の森は彼の思い出の一部だ
他人の自分が兎や角、言う必要はない
「あ、足元に気を付けて」
そう注意された矢先
彼女は暗い地面から盛り上がった樹木の根に蹴躓く
差し出し掛けた彼の腕が蹌踉めく、すずめの身体を咄嗟に支える
髪と髪が触れる
思わず彼を意識した瞬間、彼女の脳味噌が沸騰した
透かさず傾く、其の上体を起こす
すずめは「有難う」と言うと灯りもないのに暗闇の中をスタスタ歩き始めた
「すずめ、こっちこっち」
右手右足を同時に出す
ナンバ歩きする彼女の後ろ姿目掛け、彼が慌てて呼び止める
こんな調子では先が思いやられる
引き返す自分自身に呆れながら、すずめは言い聞かせる
彼は友達だ
彼は友達以上の、友達だ
其れ以上は望まない
此れ以上は望めない