狐鬼 第一章
「 大層な 」
「 大層な巫女だ 」
少女の視線が部屋の四方八方に飛ぶ
だが矢張り、其の姿を捉える事が出来ない
無意識に粉粉になった鏡台に目を落とす
「 恨み事もないのか 」
「 こんな 」
「 こんなお前を産んだ 」
「 母親に対して 」
「 父親に対して 」
声を張り上げる訳にはいかない
母親が未だ、外縁にいるかも知れない
背を向ける障子の向こう、耳を澄ます
「自分の価値は自分で決める」
「運命等、糞食らえ」
姿なき声が笑う
嗄れた低い、笑い声が洪水のように押し寄せる
「 知っているのか 」
「 運命とは 」
「 運命とは 」
「 如何なるモノが握っているのか 」
「 知っているのか 」
少女は怒りなのか
将又、別の感情なのか震える声で吐き捨てる
「さっさと、失せろ」
水が引くように笑い声が止む
其れでも鼓膜にこびり付く声に少女は耳を引っ掻く
「 全ては 」
「 全ては狐鬼(コオニ)のモノだ 」
「 巫女よ 」
少女の遠い記憶が蘇る