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狐鬼 第一章

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「今直ぐ、屋敷中の鏡を割って」

そう数はない、筈
二度と巫山戯た真似は許さない

少女の申し出に
鏡台の哀れな姿に
駆け付けた母親は問い掛けずにはいられない

「如何して?」

顔を背ける少女は何も答えず
母親が開けた障子を乱暴に全開にすると外縁へと出る

「如何したの?」

我が子の癇癪には慣れている
其れも此れも全て少女の持つ能力が原因だ

首を傾け溜息を吐く母親を余所に
少女が仰ぐ、褐返色の空に今宵の満月が煌煌と浮かぶ

「全てが満ちる、刻」

呟く少女の言葉に母親が答える

「そうね」
「皆さん、貴女の巫女としての其の能力が見たいのよ」

縁柱にしがみ付く、項垂れる少女が力無く頭を振った

「私じゃない」

途端、母親が軽やかに暢気な笑い声を上げる

「嫌だ」
「貴女の他に誰がいるの?」

視えない、という事は素晴らしい事だ

自分が目にするモノ、耳にするモノ、感じるモノは
視えない他人には無意味なモノだ

たった一人の肉親にさえ到底、理解されるモノではない

「悪魔の子」

親族は其の能力を忌み嫌い少女を、そう呼んだ
無論、少女を身籠った母親も容赦無く其の結果を咎める

父親が妻と娘を守る為
家族共共、郷里を後にしたのは少女が四つの頃だった

新天地での親子水入らずの幸を願う生活は
父親の不運な事故で其の幕を閉じる

縁柱にしがみ付いたまま
ずるずると、へたり込む少女が自らの肩を抱き寄せる

思えば少女は警戒して置くべきだった
胸が騒めく、闇の気配に何故か目を瞑ってしまった

今なら理由が分かる

余りにも強大過ぎた
強大過ぎた闇に少女は対峙する事が出来なかった

額に第三の眼を持つ、鬼

「夢じゃない」
「君は僕のモノになるんだ」

如何いう意味だ
あれは如何いう意味なんだ

「化け物は化け物同士、お似合いじゃないか」

思わず、固く瞼を閉じた瞬間
肩を抱く少女の手を包むように温かい手が触れた
背後に座す母親が其の身体を抱き締める

「母さんは馬鹿ね」

そうして少女の頭部に頬を擦り寄せる

「未だ未だ、貴女の苦悩が分からない」

母親の言葉にゆっくり振り返る
泣きそうな少女の顔を見詰めて其の面影を思い出す

「だけどね、ひばりは特別なの」

唇を噛み締め、涙を堪える少女の額に
母親が自分の額をこつん、と当てる

「だって、ひばりは大好きな父さんの子どもなんだから」

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫