狐鬼 第一章
3
一面鏡台に映り込む、蒼褪めた其の顔は
昼間の出来事を思い出しては不快感露に眉根を顰める
額に第三の眼を持つ、鬼
何処かで見た?
否、何処かで聞いた?
遡るも曖昧模糊の記憶では埒が明かない
少女は腰迄ある黒紅色の髪を梳く
黄楊櫛を置くと、側の白い結い紐を手に取る
刹那、憎悪溢れる眼差しで其れ等を見詰めた
紐に群がる異形な輩共
何処から這い出て来るのか
此の世界はどれ程、無防備なのか、と思う
蜘蛛のようで蜘蛛ではない
どす黒い鬼の顔を持つ鬼蜘蛛共は紐を伝い、少女の指へと絡み付く
「満ちた途端に此れ」
吐き捨てる少女に鬼蜘蛛共が甲高い声でキイキイ、鳴き始める
「喧しい」
鬼蜘蛛共共、其の手の平を握り締める
消え入る鳴き声を残し、異形な輩共は黒煙になり消滅する
少女の口元が笑みで歪んだ、其の瞬間
「 威勢の良い 」
「 威勢の良い巫女だ 」
耳障りな程、嗄れた低い声が耳元で響く
身構える少女が素早く、鏡越しの背後に目を走らせる
微動だにせず食い入る一面鏡の中を黒い影が横切った
鏡台に両手を掛ける
「小賢しい真似を!」
立ち上がる少女が力の限りに薙ぎ倒す
けたたましい音を立てて辺り一面に、其の破片が飛び散る