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狐鬼 第一章

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久し振りに対峙した
「メルヘンパフェ」は彼女に大層な痛手を残した

自室の寝床、腹を抱えて身体を丸めて横たわる
そろそろ夕食時だというのに一向に胸焼けが治まらない

加えて先程、ちどりから届いた
メッセージが原因なのか一層、胃液が逆流する思いだった

握り締めたまま、伏せた携帯電を見遣る

お下がりの携帯電話が瞬間、鳴り着信を告げる
ちどりから、グループメッセージの招待が届く

以前の携帯電話と共に失ったのは必要なモノだけじゃない

中には不要なモノもあった
其れが此の「花」組織委員会のグループメッセージ、だ

「花精神」同様
加入する事は女子生徒間の義務になっている

流石に此処迄、徹底?していると
其の「ヤバさ」加減が可笑しくて笑いが込み上げてきたのも事実だ

だが、いざ当事者として巻き込まれたら話しは別だ

活動内容も知らず「何か面白そう!」と、加入した
ちどりも旨趣を知るや否や以降、参加すらしていなかったが
今回の通知は無視出来なかったようだ

当然だ
当然の結果、ちどりは自分に知らせてきたのだ

先延ばす事も出来ず、グループメッセージを開く
其処には隠し撮りされたであろう、白狐の姿が貼られていた

昇降口での、場面だ
画面の端には自分の背中が見切れて写り込んでいる

溜息すら出ない

懸念していた通り
如何やら白狐は「花」候補に挙がったらしい

矢張り、あの下校時の短時間とはいえ目撃されていた
そして是又、短時間で実行、決断、行動に移すとは何て組織だ

其れでも、ぎこちない指で
画像を上に移動させれば現れてくる、メッセージ

『 情報、求ム 』

思わず手元から携帯電話を落とし掛けた

此れが彼等
「花」組織委員会の恐ろしさだ、と改めて戦慄する

誰が何時
誰が何処で「花」組織委員になるのか、分からない

其の気になれば誰でもなれるのが「花」組織委員だ

当校の全女子生徒が
「花」組織委員だと言っても過言ではない

誰もが傍観者で
誰もが傍観者ではないのだ

「怖い怖い怖い」

飽くまで冗談口調で零すも紛う事無い、本心だ
情報を収集、共有した結果、「花」対象者は丸裸に近い状態にされる

名前、住所は勿論の事
家族構成、友人関係、過去、現在に至る迄の軌跡

其の他諸諸の情報は「誰得なんだ?!」と、突っ込みたくなる程だ

一歩間違えば犯罪行為に等しい

突如、身震いする彼女は
其れが原因だと言うように携帯電話を枕の下に押し入れる

唯、其れ等の情報が存在する「花」ならいい

名前があるならいい
住所があるならいい

家族がいるのならいい
友人がいるのならいい

此処に存在するのならいい

だが、白狐は違うだろう
此処ではない、別の場所にあるのだろう

其れ等は調べようがない
調べようがなければ「花」組織委員会は素直に諦めるのだろうか

分からない
分からない以上、二度と其の目に触れさせてはいけない

遊び半分ならいい
遊び半分なら、あの翡翠色の眼に魅入られる事はないだろう

寝床の足元に畳んだ
毛布を何とか引き寄せ顔を埋める

駄目だ
胸焼けが治まらない

気怠く瞼を閉じる彼女の耳に階下で燥ぐ
しゃこの声が聞こえてきたが、白狐が相手をしているのだろうか

母親にしては激しいような…

帰宅直後、玄関先で出迎えた
しゃこに捕まった瞬間、体調不良(胸焼け)を理由に見捨てたが
同じく階下にいる母親に不審に思われなければいいが、と思い出す

「今夜はカレーなのに福神漬け、買い忘れた!」
と、財布片手に出掛けて行ったっけ

不意に聞こえた、白狐の声

「すずめ」
「しゃこの、お供えは食えたモンじゃない」

遊び相手としての謝礼なのか
将又、家族として認めた結果なのか

しゃこは自分のおやつである
焼き菓子を差し出す事があるそうだが白狐の口には合わないらしい

其れでも礼を述べて食すのだから何や彼や人が良い

今も胸焼け中の自分を心配しているのか

毛布に埋もれる
其の横顔を覗き込む白狐の気配を感じたのか

突っ伏したまま彼女は唇を緩める

「夕食はカレーですよ、沢山、食べてくださいね」

見なくとも分かる
きっと白狐は、にんまりとした筈だ

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫