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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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おーまいごっど【完結版】

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 一人、重い足取りで歩いている少女。八坂結衣である。足取りが重いのは坂道を上っているからだけじゃない。今日もセニョール君と、ケンカしてしまったからに他ならないわけ。
(彼のことがイヤなんじゃないけど、何かスッキリしないというか、いつもイラッとさせられるというか・・・)そんなことを考えながら歩いているのである。
 彼女にとっても初めての彼氏。昨年の文化祭の準備で仲良くなってから、この春から正式に付き合いだして2ヶ月になるけど、物足りなさを感じるのは、彼女のほうが1年先輩の3年生だからだろうか。情もあって、別れたいなんて思わないけど、何か意味不明な危機感を持ち始めていた。

 八坂結衣は学校帰りに一人になる。友達がいないんじゃなくて、家が学校から遠いので、帰宅仲間と別れて、最終的に一人で歩いて帰らなければならないからだ。
 家は山に近く、帰り道には長い上り坂が続いている。その途中に古い神社の鳥居があった。

『鈴成神社』

 結衣は子供の頃、ここでよく遊んだけど、もう5年以上足を踏み入れたことは無かった。その鳥居の前で立ち止まり、キョロキョロと周囲を見渡して、誰もいないことを確認すると、小さくパンパンと二拍手、神社に向かって拝みだした。
 まったく声は出さないでいたが、きっとセニョール君のことだろう。その後、目を開けると唇を噛み締めて、上り坂をダッシュして自宅に向かった。

 セコビッチは、通学に使っている自転車の荷台にセニョールを乗せて、上り坂を必死にペダルを漕いでいた。
「ああ! もう無理! セニョール降りろ降りろ!」
セニョールはふらふらと倒れそうに進む自転車から飛び降りた。その瞬間ハンドルを取られ、バランスを崩したセコビッチは、道路脇のガードレールにぶち当たり、転倒してしまった。
「あたたた! セニョ、気を付けてくれ!」
すぐに立ち上がったものの、肘を擦り剥いて血がにじんで痛そうにしている。
「セコビー。大丈夫か?」
「大丈夫だよ。こんくらい」
「でも、傷口を洗わないと」
「水道もねえ(無い)だろ。こんな所じゃ」
セニョールは周囲を見渡したが、その辺りは民家も無く、人通りも少なそうな道だった。そして二人は、すぐ横に立つ鳥居を見上げた。
「神社か」
そこは、先ほど八坂結衣が手を合わせて拝んだ、寂れた鈴成神社だ。
「きっと、手を洗う場所があるはずだよ」