おーまいごっど【完結版】
第壱話 ビンタ
★バチン!
ビンタだ! 彼女からいきなりビンタされた。妹尾徹(せのおとおる)は、ビンタされやすい顔なのかな。
思い起こせば、小学1年の時、担任の太宰先生にビンタされた。
2年生になったら、出雲先生にもビンタされた。
3年生では、優しそうな鶴岡先生にビンタされた。
4年になって、大好きだった熱田先生にまでビンタされた。
5年生にもなれば、もう諦めていたが、伏見先生にもやっぱりビンタされた。
6年生では担任がヨボヨボばあちゃんの伊勢先生だったので、ビンタされないと思って安心していたら、隣のクラスの靖国先生に、往復ビンタされた。
中学になると不良グループからビンタされるようになって、もうそれは挨拶代わりのようだった。
そんな彼にも高校2年になって、初めて交際相手ができた。相手は同じ美術部の八坂結衣だ。
その彼女にビンタされた理由は単純だった。
『彼女のイライラ』・・・いつもこんな理由でビンタされる。
妹尾徹は、理不尽と思えるそんな理由でも、小さい時からビンタされ続けていると、それが当たり前で疑問に思ったりしなかった。そんな時も、相手に媚びることで仲直りする術を身に着けていた。
「セニョ(妹尾)。お前ホントによくビンタされるよな」
下校途中に雑談をしている相手は、保育園からの幼馴染で親友の瀬古美智(せこよしとも)。彼らはお互いにニックネームで『セニョール(妹尾徹)』、『セコビッチ(瀬古美智)』と呼び合っている。
「そんなこと無いよ。先週はされなかったし」
「あーあ。せめて彼女には、ビンタしないようにお願いしてみたらどうだ?」
「お願い? セコビー、そんなことでビンタがなくなるはずないじゃない」
「ええ? またそんなこと言う。ビンタされる前提で生きてる感覚を何とかしようぜ」
セコビッチは毎回このような会話になるのに、飽きずにアドバイスしてくれるいい友達だ。というより、こんなセニョールの境遇が、面白いからに他ならないのだが。
「お願いするなら、神様にした方がいいんじゃないかな」
「神頼みなんか、当てになるかっての!」
作品名:おーまいごっど【完結版】 作家名:亨利(ヘンリー)