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百代目閻魔は女装する美少女?【第八章】

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 立ち上がったのは由梨。なぜか、美緒、万步は安堵の表情を浮かべたように見える。まだ由梨は何も言ってないのに。
「こうすればいいと思うの。」
 由梨の考えはこうだ。『本気で好きだ。』を言うのは基本的には無理である。嘘つき少女に対して愛がないのだから当然である。そこで、考えられることは、『洗脳』である。つまり、本人の意思とは無関係に、強制的に『好き』という感情を植え付けることである。由梨はもっと具体的に話した。
「都を洗脳して、嘘つき少女を見たら条件反射で、『好きだ』と言わせるように、特訓するのよ。あああ、言いたくなかったのに。まあ、こんな素晴らしいアイデアはあたししか、思いつかないけどね。」
「そうだな。くくく。」
「そうね。さすが由梨たん。天才だよ。感心感心。」
「べ、別に、これくらい当たり前よ。フンだ。」
 顔をそらす由梨をにやにやしながら見る美緒と万步。初めからこの考えはお見通しか?
「よし、これで決まりだな。では特訓を開始しよう。名付けて『都を洗脳して、嘘つき少女・真美に好きだと言わせる大作戦』だ。」
 すべて、オレの意思を無視してスタート。当然ながら、オレは美緒たちから遠く離れた場所で、廊下に立たされる生徒のように、心身ともに固まっていた。
(どうしてオレがこんなことをやらなければいけないんだ?生徒会長とは支持率が低迷してレームダック化した内閣のようなものか?)
 とは言わないオレであった。立派。これぞ生徒会長。
 さて、特訓の内容。それは真美の写真、つまり心霊写真を見て萌えるよう暗示をかけるものだ。
「きゃー!何これ!」
当然ながら由梨は怖がって、写真を直視することはできなかったが。
オレはひたすら写真を手にしては『好きだ』とお経のように唱えるだけ。ただ、その表情は苦悶にまみれている。でも特訓にひたすら耐え忍ぶ。
(絵里華を助けるためだ。これくらいは乗り越えないと。)
この思いだけがオレを支えていた。
「く、苦しいね。これは。」
 万步が特訓する都を見て思わず口走った。由梨は無言だが、両手を膝の上に置いて、わずかに震えている。さすがの美緒もじっと目を閉じている。苦しんでいる都を見るのもツライが、それ以上に彼女たちを揺さぶっていることがある。それは、『真美に好きだ』と言っていることである。どうしてか?それは彼女たちにしかわからないこと。
そして数日経過したある日。アキバに向かう五人。一応、眠ったままの絵里華も連れてきている。眠っていると言っても、眼を瞑って、喋らないだけで、からだは動く。支える者がいれば、立っていることもできる。介護するのは万步だ。こういうことは誰彼となく、万步がその役割を果たしてくれる。
(みんな正面切ってありがたがることはないが、きっと、心の中では感謝している。絵里華も無意識の中で喜んでいるだろう。)
 美緒はそう思って眠り姫と化した絵里華を見つめていた。周りに目をやると、由梨も目を細めて万步に視線を向けていた。生徒会は一枚岩。万步の誠意に応えるためにも、絵里華を必ず助けなければと美緒は気持ちを新たにしていた。
 オレは普段と変わりない様子。洗脳はあくまで真美を見た時に発動するものだからだ。結果としていつものように、生徒会メンバーにくっ付いていくだけであった。でも絵里華を助けるためという心はみんなと同じ。

 再びアキバのコンビニに到着した面々。もちろん、絵里華も一緒である。すぐに真美は現われた。美緒は恵比寿の魚籠をすでに用意している。
「あなたたち、性懲りもなくやってきたわね。」
 真美がそう言った瞬間。それまで大人しくしていたオレはカッと目を見開いて、両腕を脱力したようにだらりと垂らしたままで、彼女の方に歩きだす。どうやら洗脳は成功したようだ。
「や、やめて~!」
 思わず叫んだのは由梨。しかし、
「好きだ。」
 ついにその言葉を発してしまった。
 今度は絵里華が突然動き出した。目を瞑ったまま、オレの方に近づいてくる。
「やったわ。成功、成功。」
 真美は天獄にも地獄にも行く風情はない。
「もしや神たちを騙したのか?」
「アタシは嘘をつくのが好きなんだからしょうがないでしょ。アタシが消えるはずないわ。アハハハ。」
 絵里華の動きが電池の切れた時計のようにパタリと停止した。すると、霞のようなものが出てきて、絵里華を覆った。そして、それはだんだんと形を成してきて、パックのように、絵里華の顔に張り付いたかと思うと、彫の深い表情に変貌した。目は切れ長で涼しげ、鼻筋はアルプスのように切り立ったイケメン。
「やっと、出てきてくれたのね、隼人。アタシに本気で好きだと誰かが言ったら出てくることになってたんだもんね。真実の愛の告白がキーポイント。」
 真美は嬉しそうに、絵里華、いや隼人の腕を抱いた。
「そいつは、真美の恋人なのか?」
「べ、別にそういうのじゃないわ。ジバク友達よ。ねえ、隼人。」
「・・・・・。」
 隼人は何も言わない。絵里華と同じく眠っているようだ。
「隼人ったら、人見知りしてるのね。言いたいことがあればはっきりと言えばいいのよ。」
 やはり、隼人は沈黙したままである。
「そいつも眠ったままのようだな。そいつを起こせば、絵里華は元に戻るのか。」
「ご名答だわ。でもどうしたらいいのかしらねえ。フフフ。」
 不敵な笑みを見せる真美。
「揺すったり、叩いたりという物理的な衝撃を与えてもダメだろうな。」
 美緒は自信なさげに呟いた。
「その通り。頭いいわね。じゃあ、ヒントあげるわね。眠れる森の美女よ。」
「うっ。そ、それは・・・。」
 美緒の顔色が変わった。代わりに万步が答えた。
「つまり、眠っている絵里華たん、いや隼人たんにキスをすればいいということ?」
 いつも明るい万步も緊張した面持ちである。
「そんなの簡単じゃない。お茶の子さいさいさいさいマサイ族は一夫多妻制~。」
 由梨はすっかり動揺している。
「よおし。由梨は当てにならない。この神がやってやろう。」
 美緒は腕まくりをした。そんなに気合いを入れるようなものではないように思われるが。
 美緒は般若面を取り隼人ににじり寄った。スリスリスリ。泥棒ではない。スリ足である。ほんの少しずつ、移動している。ミリ単位である。よくこれだけ微妙に動けるものである。さすが美緒。
「美緒たん。だんだん距離が離れてるよ。」
 万步が指摘するように、美緒は絵里華との距離を詰めるのではなく、逆に離れていった。すでに面を着用している。額には『怖』。相手がイケメンでも男性恐怖症発症。ジ・エンド。
「じゃあ、万步が行くね。にこにこぷ~ん。」
 万步はいつもの明るさを取り戻しているように見える。じっと隼人を見つめている。慈母観音像のような頬笑みを浮かべている。美緒を差し置いて、神々しい。万步はずいずいと隼人に近づいていく。そして隼人の目の前に到達した。
「すーっ。はーっ。すーっ。はーっ。」
 深呼吸をする万步。ヤル気まんまんなのだろう。
「万步、別に頑張らなくていいからね。キスは塩焼きがおいしいの♪水泡に帰す♪最善を期す♪答えを記す、でも零点だわ♪」
 由梨は壊れた。
「ようし。行くよ~!」