百代目閻魔は女装する美少女?【第八章】
万步は膝まづいて、クラウチングスタイル。ダッシュをかけるのか?
「ウオオオオ~!」
すごい気合いをかけたかと思うと、いきなり走りだした。あさっての方向に。
「やはりだめだったか。都が見ているからかなあ?」
美緒がポツリと一言。
「こうなったら、アレしかないな。」
美緒が視線を送った先には、10メートル先で、ポツンとつっ立っている都。
『距離は離れているが、状況はわかっているか、都。』
『はあ。一応理解はしてる。』
糸電話による命令伝達。
オレはかったるそうに、ゆるゆると歩いて来る。これ以上ないくらい、テンションは低そうだ。とりあえず隼人の前に到達。
『よし。そのままぶちゅう、いや、ゴホン。あ~、せ、せ、せ、接吻を食べて』
美緒は言語障害に陥ったらしい。ほぼ由梨状態。
『あの男にキスすればいいだよな。』
『そ、そうだ。』
『男同士だから楽勝だ。』
『都。まさか、経験があるのか?』
『企業秘密だ!』
『ううう。気になる。』
『そんなことより、職務遂行するぞ、いいな。』
『どうぞ。お願いします。生徒会長。』
急にへりくだった美緒。都合の悪い時の生徒会長?なんかおかしいが、放置プレイ。
オレは両手を前に垂れて、ゾンビのように絵里華の方に進んでいき、辿りついた。『フーッ』ひとつ溜息をついた。気持ちを落ち着けたようだ。いよいよやるのか。
オレは両手を隼人=絵里華の肩に乗せた。普通なら気持ちが悪くなるようなシチュエーションだが、隼人=絵里華は瞼を開くことはない。
オレは表情を変えないまま、頭部を緩慢に自転させながら、隼人=絵里華へ接近させていく。ついに、台風が上陸するか?
「「「「待って~!!!」」」」
由梨、万步、そして美緒が絶叫して制止した。おや、声がもうひとつ?
「隼人の唇はアタシだけのものよ!」
『チュー!』
やってしまった。実行犯は大きなリボンの主だった。嘘つき少女・真美である。
「「「・・・」」」
三人は口をあんぐり。声が出なかった。
「「「ほっ。」」」
一瞬の間を置いて、安堵の表情を浮かべた。三人はその場にへたり込んだ。
「はあはあはあはあはあ。やってしまったわ。こんな形でファーストキス。ううう。」
なんだか、泣きそうな真美。
「・・・。・・・。・・・。あ。・・。あ・・・。あああ~。」
隼人は犬のように腕を伸ばす。大きな欠伸。
「お、起きたぞ!」
最も近くにいたオレが腹の底から大きな声を出した。
「「「ホント?」」」
見守っていた三人もきつねにつままれた表情となっていた。
「あ、真美。おはよう。やっと目が覚めたよ。実にすがすがしい夜だ。」
空には雲は無くなっている。それと共になのか、隼人は実にさわやかな表情である。霞がかっていた顔がクリアになった。ジバクであるが、顔の色は蒼白というよりは、純白という表現の方が正しい。
(あっ。)
万步は思わず声を出しそうになったが、誰もそれに気付かなかった。
「どうして、どうして、眼が覚めたの?アタシじゃ駄目だと思ってたのに。」
「真美。久しぶりだね。って、そんな挨拶をしている状況ではなさそうだな。だいたいの事情は理解しているつもりだ。真美はオレを目覚めさせるのは、誰かのキスだと思っていたんだよね?」
「誰かって。そんなんじゃなくて、隼人が目覚めるのは、隼人が好きな女の子がキスした時だけだと思ってたよ。だから、アタシじゃ駄目だと・・・。」
「だから目覚めたんじゃないのかな。」
「えっ・・・。」
「そういうことだよ。」
「で、でも。隼人はあの娘が好きなんじゃないの?」
「あの娘?」
「アタシ、生前に見ちゃったんだよね。隼人が他の女の子と抱き合うのを。」
作品名:百代目閻魔は女装する美少女?【第八章】 作家名:木mori