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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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狐憑き

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 ある日、お腹の子が跡形もなく消えてしまったそうだ。流産していたのか、単に想像妊娠だったか、ひょっとすると中絶だったのか、それはわしも知らん。
 お腹の子がいなくなって、一番ショックを受けたのは、キヨコさん本人だったろう。その日から表に出んようになってしまって、布団からも出ん生活が続いたようだ。

 おじさんは娘が精神的な病に臥せって、その心配は大きかったろうな。町の診療所では治らんかったんで、大きな病院にも連れて行ったが、どんな薬を飲ませても、様子が良くはならんかった。

 そのうちに家に祈祷師まで呼ぶようになって、家の中で護摩が焚かれたり、大声で祈祷が行われたりしたもんで、集落で変な噂まで出るようになったのだ。
 それは、その家のおばさんが、集落の共同作業場でこぼした愚痴が原因だったようだが、
「キヨコ、もううちの娘じゃない気がして、何か・・・別の何かになってしまったよう・・・」
キヨコさんが(変な霊に取り憑かれた)とか思っとるようだった。

 祖父も心配して、キヨコさんの見舞いに行ったことがあるそうだが、その時、その娘の異様な姿を見たんだと。
「ねんねんころ~りよ。おこ~ろ~りよ~」
 キヨコさんは、布団に横たわって、まるで枕に添い寝するかのように、子守唄を歌っておったそうじゃ。
「キヨコさん。ほれ、元気かい? キヨコさん」
誰が声をかけても見向きもせんで、ただひたすら枕を抱いて歌っておったそうだ。
 また別の日には、布団に正座したかと思えば、着物を脱いでその枕に乳を与えたり、背中に負ぶって部屋の中を歩き回ったりしての、赤子を大事に育てておる妄想と現実の区別が、まったく着かんようになってしまっておったようだ。

 だがそのうちにキヨコさんは、部屋から出ることも出来るようになった。表情も少し明るくなって、外に散歩に出ることもあったそうだ。これで一安心かと思えば、そんな時も必ず枕を赤子のようにあやしながらだったそうだから、あまり良くはなっておらんかったのだろう。
「こんにちは。今日は暑いから気を付けえよ」
皆心配して声をかけたが、キヨコさんには全く聞こえていない様子じゃった。

作品名:狐憑き 作家名:亨利(ヘンリー)