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短編集82(過去作品)

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 熱くなってくる身体を感じていると、夢の世界がよみがえってくる。朝を感じていると夕方を思い出し、夕方を感じていると朝を思い出す。感じることに満足ができないのだろうか? それともそれだけ貪欲なのだろうか? 自分でも分からない。
 いつも揺れに任せて寝ているが、同じ場所で目が覚める。遠くで聞こえる遮断機の音が気になって身体を起こすが、益の通過が白い閃光を残していく。眩しさが目の覚まさせてくれるのか、意識がハッキリするのはそのあたりからである。
 いつも降りる駅が近づいてくる。いつになく喧騒とした音が耳鳴りに掻き消されるように思えていたが、線路に面した、駅の近くの公園の警笛がハッキリと聞こえてくる。だがその音はまるで夕方聞いた時に感じる篭ったような音で、赤い警報機の音が明らかに真っ赤だ。
――まるで血糊のようだ――
 以前に踏み切りで見かけた事故を思い出した。後にも先にもあれほど鮮明に覚えている事故は初めてで、ついさっきまで生きていた人だと考えただけでも背筋に冷たい汗を感じる。その時の光景が今も目に浮かぶようである。
――そういえば朝が好きだと言っていたな――
 付き合っていた女性を思い出していた。自殺したという話だが、理由はハッキリと分からない。自分のことについて一番たくさん話した女だった。朝と夕方の違いについて感じることを話したように思う。彼女はどんな思いで聞いていたのだろう。
 自殺の原因は何であれ、愛し合っていた仲だったことは今でも間違いのないことだと思う。元々自分が熱を上げていたのだが、いつの間にか立場が逆転していた。熱しやすく冷めやすい自分であったが、相手は徐々に盛り上がった気持ちなだけに、なかなか冷めることはない。そんな彼女に少し引いてしまったのも事実だ。
 耳を澄ませば聞こえてくる警笛の音、真っ赤に染まった警報機が怪しく光っている。そこに写っているのは、口から真っ赤な鮮血を流している一人の女性、
――これは夢なのか?
 彼女は怪しく微笑んだ。ゾッとするような笑みである。次の瞬間、瞼を伝って流れる涙をハッキリと見た。それは彼女の泣いた姿を見た初めての瞬間でもあった……。

                (  完  )





作品名:短編集82(過去作品) 作家名:森本晃次