sakura
明はすでに軽いいびきをかいていた。さくらはこうも簡単に眠ってしまう明を羨ましく思った。さくらは床に入ってから1時間以上も眠れないからだ。とくに、倒産してからは、いろいろ考えることもあり、明け方まで眠れないこともあり、睡眠時間は3,4時間であった。
12時に明を起こす約束であった。それから30分の時間で、セックスを済ませるのだろうかと考えると、さくらは不安を感じた。疲労と睡眠不足であれば、高齢な明が忙しくセックスをすれば、腹上死などもありうるからだ。さくらはそんな巻き添えにはなりたくないし、明の命を守らなければならないと考えた。
13時2分の電車に乗るためには、歩いて駅まで15分とすれば、12時30分に起こそうと考えた。大事な商談を諦めれば、ゆっくりとセックスの時間が取れるからだ。商談が優先すれば、このまま明はセックスは諦めて、駅に向かうにしてもその時間はある。
さくらは時間を気にしながら、身体は明に密着していた。明の体温の温かさがさくらに伝わり、さくらの身体に入り込んでくるのだ。さくらにはそれは言葉か文字のようにも感じられた。
明のショルダーバックはテーブルの上に置いたままなのだ。さくらは信頼されていることが嬉しかった。本名も住所も明に明かしていない。
「夢を見ていたよ」
明はさくらが起こす前に目を開けた。
「ごめんなさいね。時間より早く目覚めさせてしまって」
「今の時間は?」
「12時16分ですよ」
「そう、僕もぼけたな、12時に頼んだと思っていたんだよ」
「私が聞き違いしたのかしら」
「良くあるんだよ。勘違い。若い君が間違うわけはないから。商談があるから、コーヒーを飲んでから、ここを出ましょう。お湯が湧く間に、身支度しましょう」
「すみません。お小遣いは半分で良いです」
「マッサージ代だよ」
「3万円ありますよ」
「多い分にはいいでしょう。また会いたいですからね」