sakura
明はさくらの後ろからついていくことになった。小山駅西口から、狭い路地を抜けて、こ線橋を渡り始めた。明にはきつい勾配であったが、年齢差があるから、できるだけ若く見せようと、呼吸が荒くなるまいと、昔マラソンの時に使った、2度息を吸い、2度息を吐く方法で呼吸をした。そして、さくらにはそれを悟られないように、5メートルほど離れて後を付いていた。
「大丈夫ですか」
「気にしないでください」
明は離れたことは逆効果だと考え、さくらとの距離を縮めた。
「靴の中に小石が入って、取っていたから離れてしまったよ」
その言葉を話すときは息が荒くなっていた。
こ線橋のてっぺんに着くと、十字路になっていて、その他に細い脇道もあった。
コロナで外出は控えていることもあるのだろう、歩いているのは明とさくらだけである。
普段の12月なら、こんなことはないと明は思っていた。
「タクシー使えばよかったよね」
「もったいないわよ。10分ですから」
「僕が支払いはするつもりだよ。帰りは使おうね」
「帰りも歩きましょう」
ナビは正確にラブホテルまで案内してくれた。ホテルの看板が見えたのだ。
明は歩いてラブホテルに入るのは初体験であった。なんとなく、自分がケチのようであり、あるいは貧乏に感じた。やはり、金がなくても見栄を張るのが礼儀のように思えたのだ。明は金に困る状態ではないから、気が利かなかった自分に腹立ちを感じたのだ。
明とさくらが門をくぐると、その脇を、ベンツが通り抜けた。
ドアを開けると、タッチパネルで部屋の予約が取れた。
「部屋は最高の部屋にしましょう」
「安い部屋で構わないわよ」
明は最上級の部屋を予約した。
「先を越されてしまったじゃないの」
その言葉と同時に、明は肩を後ろから叩かれた。
「部屋譲ってくれますか?」
ベンツの車の男性である。
「無理ですよ」
「交換してくれたら、部屋代は支払いしますよ。帰りはタクシーが乗れますよ」
明は上から目線な男に腹が立った。
「お譲りします。部屋代金は現金で今くださいね」
「ありがたい。7千円でいいですね」
明はさくらのしたことに口は出せなかった。