小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「キコちゃんはちょっと小さい」〜完結編〜

INDEX|8ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 



「ただいま~」

「おかえりなさいませ一也さん!ありましたか!?ありましたか!?」

キコちゃんは俺がドアを開けた途端、大急ぎでそう聞いてきた。俺はそれに笑いが込み上げながらも、「あったよ」と返事をする。するとキコちゃんはほっとしたように微笑んで、俺を振り返りながら部屋の中へ駆け戻った。楽しみにしていた物だから、すぐに見たいんだろう。

「こっちです一也さん!早く開けましょう!」

「うんうん。それから、もう一つ、いいのがあったから買ってきたよ」

「いいの…?なんですか?」

俺は大きなエコバッグから、まず猫耳ハンディファンの箱を取り出し、中身を開ける。それから充電がされていることを確認するため、自分に向けてスイッチをつけてみた。すぐにふわっと風が吹いたので、俺はそれをキコちゃんの隣に置く。かなり小さいものだから、サイズは彼女とやっぱり同じくらいだった。

「なんですか?これ…?耳がついてますね。かわいい」

彼女は猫耳を撫でて、ほわっと顔をほころばせる。俺がキコちゃんに向けてファンのボタンを押すと、彼女は「きゃっ!」と悲鳴をあげた。



「あ゛あ゛~」

キコちゃんはハンディファンの前で、安直な四コマ漫画のように、「ああ~」と言っている。これもテレビで見てから、やってみたいと思っていたことみたいだ。俺は彼女が夢中になっている間に、本来の目的だった道具を組み立てていた。ちょっとハンドルを付けるだけなのでそれはすぐに終わって、キコちゃんに声をかける。

「できたよキコちゃん!」

「えっ!?できましたか!?」

そして俺は完成した「かき氷機」をテーブルに乗せた。キコちゃんは「きゃーっ!」と叫んでかき氷機に抱き着く。

うーん。ここまで喜んでもらえるんだから、そりゃ買っちゃうだろう。「ペンギンの形をしたかき氷機」だって。

「わあー!ペンギンさんです!一也さん!氷!氷をください!私が回します!」

「待ってね、あとシロップも買ってきたから、お皿も用意するよ」

そして、やっぱりハンドルを回す力のない彼女の代わりに俺が氷を削って、小さなガラスボウルに山盛りになったかき氷にシロップをかけ、かき氷が完成した。

「んー!冷たくておいしいです〜」

「うん、おいしいね」

俺たちは頭が痛くなるまでかき氷を食べた。「あいたたた」と2人で言って、顔を見合わせる。

「ふふ、一也さん。ありがとうございました」

「いえいえどういたしまして」

「あの…それから…」

「うん?」

キコちゃんは小さなスプーンをお皿に置いて、俺を見た。俺はそのときドキッとして彼女を見つめる。彼女は小さなテーブルに頬杖をついていた。それから、頬をふっくり上げた満足そうな笑みで俺を見上げて、首を傾ける。その仕草は、彼女をいつもより少し大人っぽく見せていた。

「…好きです、すごく」

今が夏じゃなくたって、俺は体が熱くなるはずだ。君がそんな顔をするから。

「俺も、好き…」

俺は自分の言葉が尻すぼみになり、うつむいてしまったことがちょっと悔しかった。


夏がこんなにきらきらと楽しいとは思わなかった。

俺の過ごした幼い頃の夏は、人のいない家で鳴る風鈴の音に身を任せて、昼寝をするだけだった。でも今は、彼女がいる。一緒に楽しいことをして、それを喜び合える彼女がいるんだ。

彼女が一つ一つ新しいことを知っていく喜び。それを見守っていく喜び。彼女が俺を見つめていてくれること。「好き」と言ってくれること。それだけで俺はよかった。

それが、あんなにすぐに揺らぐなんて。