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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「キコちゃんはちょっと小さい」〜完結編〜

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16話目「夏はやっぱりひんやり熱く」






俺はその日、「キコちゃんと過ごす夏に何をするか」について考えていた。そして、夏と言えば思い浮かぶ、恋人同士の催しを並べてみる。

たとえば、「花火大会を観に行く」。これは多分キコちゃんを連れて行かない方がいいだろう。彼女がたくさんの人目にふれる可能性があるということは、彼女の危険を意味する。

「夏祭り」に行く。これも花火大会に行くと仮定したときと同じ理由で、あまり気が進まない。それに、キコちゃんには金魚すくいや射的はできないし、せいぜいチョコバナナやりんご飴にかぶりつくくらいだと思う。それはそれでとても可愛らしいだろうし、見てみたいのだが…。やっぱり多くの人が集まる場所に彼女を連れて行くのはリスキー過ぎる。

それから、「プールか海に行く」。これも却下だ。彼女は小さすぎて、たとえばプールや海で水にさらわれてしまったりしたら、救い出せる可能性が小さすぎる。そんなの心配でしかない。

もしくは、「山に行く」。うーん、これも小さなキコちゃんには危険のような気がする。そもそも、彼女が俺の肩かなんかに掴まっていて、地面に落ちるようなことがあるだけで、すごく危険なのだ。

「二人で温泉旅行」。しかし俺にその金はない。あと、俺たちはすでに一緒に住んでいるので、二人でどこかに泊まりに行くことの必要性も薄れる。それから、キコちゃんを連れて移動しても彼女が見つからないようにするには、荷物などに詰め込んでしまうしかない。でもそれでは、キコちゃんが苦しいばっかりだろう。これもダメだ。困ったなあ…。



俺は数日考えに考えたがやはり何も思い浮かばず、二日間の休みをもらった前日の晩に、キコちゃんに聞いてみた。

「したいこと…ですか…?」

キコちゃんはかじりついていたフルーツグミをひと口飲み下してから、うーんと考え込む。そして、しばらく顎に手を当てて首を傾げていた。しかし彼女はやがて答えが出たのか、ぱっと顔を上げて明るい笑顔を浮かべ、自信満々に言い放つ。

「宇宙に行きたいです!」

「はい無理」

「どうしてですかっ!?」


俺はそれから、宇宙に行くためにはどのくらいお金がかかるのかと、俺の用意できるお金では一生かかってもそれに足りないことを、まず彼女に納得させた。その上で、宇宙にはそれなりの立場の人間しか行けず、それは人類の学術的探訪のためでなければならないことも、キコちゃんに教えてあげた。


「なんだぁ…そうなんですかぁ…。“しーえむ”ではみんな月に行ってるから、誰でも行けるのかと思ってました…」

確かに俺たちはこの間、簡単にロケットに乗り込んで月に行き、憂さ晴らしにかけっこをする大人が出てくるCMを見た。

「まああれはCGだから…月には行けないけどさ、なんか他にしてみたいこと、ない?」

それからキコちゃんはまたしばらく考えて、おそらくこの間また“しーえむ”で見たのでやってみたかったのだろう、あることを俺に頼んだ。




俺は今、おもちゃ屋に来ている。郊外の国道沿いにある大きな店舗なのでとても広い。ここならキコちゃんに頼まれたものも必ず見つかるだろう。そして、あわよくばそれ以外にもキコちゃんを驚かせられるものがないかと、喜び勇んで奥へと入って行った。


夏休みに入って少し経つ。そろそろ毎日暑くなってきたから、涼しくなる道具なんかも、もっと必要かもしれないな。家で常につけていてもそんなに電力消費の多くない冷房器具なんかないかなあ。まあおもちゃ屋にそんなものがあるわけないか…。

そのときたまたまそう考えていた俺の目に、あるものが飛び込んできた。

それは、商品棚の端で通路側を向いているところに飾られた、手持ち扇風機のようなものだった。俺はなんとなくそれを手に取る。「ハンディファン」。商品名にはそう書いてあった。それは手のひらに収まる持ち手に小さいファンがついていて、立てかけて置いておくこともできるみたいだ。そして、ファンの頭の部分には、猫耳がついていた。

…どうしよう。

俺は純粋に悩んだ。なぜなら俺は18歳の男子だからだ。たとえ彼女のためにこれを買うのだとしても、それを想像できる人はなかなかいないんじゃないかと思う。ギフトラッピングなんかを頼めば、「ああ」と思ってもらえそうだけど、それは100円が余計にかかるからできない。

買うの、ちょっと恥ずかしいなぁ…。

いや、今日ここに買いに来た物も買うのはちょっと恥ずかしいのだが、たまには大人でも購入する人がいる。だからそこまで抵抗はなかった。しかし、“猫耳つき手持ち扇風機”はハードルがあまりに高すぎる。

しかし俺は、キコちゃんがもしこれを目の前にしたら、と考えてみた。彼女はきっと喜んでくれるだろう。すぐに使いたがってくれるかもしれない。突然の風に驚いたり、猫耳がかわいいと気に入って、にこにこしてそばに置いておく彼女を思い浮かべる。

…まあいっか。

俺はそのピンクの猫耳ハンディファンをカゴに入れて、それから目当てのおもちゃコーナーを目指した。