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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「キコちゃんはちょっと小さい」〜完結編〜

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「ただいま~」

俺は胸をどきどきさせ、わくわくさせ、そして足取りも軽く家に着いた。玄関にはキコちゃんが出てきてくれていて、ついこの間新しく買ってあげた、人形用の黄色い縞模様のパジャマを着ている。

「おかえりなさいませ!一也さん!早くやりましょう!」

彼女はそう元気よく叫んで、床から25センチくらいの間を、小さな体でぴょんぴょん飛び跳ねた。

「え、えっ!?」

俺は焦った。まだ玄関のドアも閉めていないのに「早くやりましょう」とは、キコちゃんも大胆だなと思った。とりあえず後ろ手にそっとドアを閉めてから、彼女を拾い上げて、顔を近づける。

目の前にはハムスターほどの大きさの女の子が、俺の手の上でにこにこ笑ってくれていた。

俺は今から、“キス”をするのだ。はじめての。まだなかなか心の準備ができていないけど、そんな意気地のないところは彼女には見せられない。緊張していることは態度に出さずに…さり気なく…。


そうは言っても、心臓が痛いくらいにどくどくと鳴っていて、俺の耳にはそれが大きく響いている。だからどうしても、“彼女にも聴こえてしまっているのではないか”と思ってしまう。耳まで熱くて、体が震えそうになる。

もう仕方ない。言い訳や我慢なんてしなければいいんだ。“君が好きだからこんなふうになってしまうんだ”と、俺は言ってやる。世界中に言ってやる。

そんなことを考えながら、俺は、目を閉じた。

そして、キコちゃんの優しい声が聴こえてくる。


「一也さん……“しりとり”」


……ん?

俺が目を開けると、何かを期待して俺の言葉を待っているようなキコちゃんがいた。まさか…。

「キコちゃん…「やりたいこと」ってまさか…」

そう聞くと、キコちゃんはちょっと首を傾げたけど、思い出したようにこう言う。

「あ、“しりとり”です!そうでした、一也さんにはまだ言っていませんでしたね、すみません!でも一也さん!ほら、“しりとり”!“しりとり”ですよ!」



俺は何かおかしいなと思ってキコちゃんに詳しく聞いてみた。すると、彼女は昨日テレビドラマを観て、初めて“しりとり”を知ったのだと話してくれた。確かに俺も、そのとき一緒にテレビを観ていた。そのドラマでカップルが暇つぶしに「しりとり」を始めるシーンに、キコちゃんは何かいたく感銘を受けたらしい。そしてどうやら、“「しりとり」はカップルがやるものだ”と思っているようだった。


俺は思い切り脱力した。それから、やり場のない残念さやもどかしさを背中に隠し、「「しりとり」は誰とでもできるんだよ」とキコちゃんに教えてあげた。



「ゴリラ」

「え、えっと…ラッパ、さっき言いましたよね…あ!ラーメン!…あ。…あー!」

「はいまたキコちゃんの負け」

「どうしてですか〜!」

「ふふふ」


その晩は眠るまでの間、俺たちはしりとりをした。