小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「キコちゃんはちょっと小さい」〜完結編〜

INDEX|3ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

14話目「恋人が毎日可愛くてしんどい」







俺とキコちゃんは、「好き」という気持ちをお互いに向けているのを確認し、そろそろ一週間ほどが経った。その間は大変だった。そりゃあもう大変だった。

何せ、両者間の了解が取れているので、「もう気持ちを解放していい」わけだ。しかし、キコちゃんは恥ずかしがり屋だし、怖がりだ。彼女に強く迫ったり、可愛い可愛いと好き放題に言い続けてみろ。キコちゃんはそれがあんまりに嬉し過ぎて、そのストレスで病気にでもなるんじゃないかというくらい、彼女は感受性が豊かなのだ。これは冗談でもなんでもない。俺と目が合うだけで、彼女は真っ赤になってもじもじし始めるんだぞ。だから、俺はあんまり彼女に好きだ好きだと言えなかった。

そして、もう一つ大きなイベントを、俺たちはまだ体験していない。


“キス”である。しかし、これには俺もそこまで気乗りがしていない。というより、俺だって少しは恥ずかしいのだ。


高校生にもなってした初恋の相手に、大人しく「はい」と言われたのだから、まず、俺の舞い上がりようは生半可なものではない。この間は「告白をした翌日、目が覚めてからぎこちなく挨拶をした」と言ったように思うが、実は俺はあの晩は寝ていない。眠れなかった。理由は初めに述べた。「高校生にもなってした初恋の相手との恋が叶った」のだ。これがどれほど俺の心臓を苦しめ、胸を押し潰し、瞼を急がせたか?それは誰だって聞かなくてもわかるだろう。

“薔薇色の人生”。そんな言葉はよく耳にするが、まさか本当にそんなものがあるとは思わなかった。あらゆる人間の欲望を凌駕するものが“素敵な想い人と過ごす時間”なのだ。そういう赤っ恥ものの台詞が頭に浮かぶくらい、俺はどうにかなってしまっていた。

可愛い可愛いキコちゃんがいつも家で待ってくれていて、俺が帰ると、大喜びしてひっついてくる。そうして一緒にテレビなどを観ているとき、いつの間にかキコちゃんは俺のパーカーのポケットの中でお菓子を頬張っていたりする。バイトに出かけて帰ってくると、彼女は眠そうに目をこすりながらまた「おかえり」を言ってくれて、俺が眠るのを待ち切れずに、小さなおもちゃのベッドの中で丸まって、清らかな寝顔でほんの小さな寝息を立てている。


これが「初めてできた彼女との毎日」だと考えてみてくれ。ちょっとおかしくないか?


まず、一緒に住んでいる、つまり同棲しているところから話が始まるカップルは、そうそういないと思う。普通、初めのうちは「大好きな人と過ごす、心臓が弾けそうなほど大切な時間」を、「デート」とかで何度か体験して、まあ年齢にも寄ると思うけど…その…そのあとのことは置いておくとして。とにかく、「毎日一緒に暮らしている初恋の人」なんていう、おかしな状況にはならない。でも俺たちの場合はそうなのだ。


心臓がもちやしない。彼女が目の端に映るだけでも胸が高鳴るし、どうかなってしまいそうなほど嬉しいのに、家に帰れば必ず彼女はいつでもそばにいるのだ。一日も休みなく、俺はときめきっぱなしなのだ。正直、「そろそろ心臓発作とか起きるんじゃないかな」と思った瞬間が二つあった。

それは、3日目の朝、目が覚めたときと、5日目の夕方、キコちゃんが初めてジャムの乗ったビスケットを食べたときだ。


俺たちが想いを通じ合わせて3日目の朝、俺は昔の夢を見ていた。たまに見るのだ。俺は4歳のときの姿のままで、亡くなった父さんと母さんが俺を抱いていた手をほどき、そして微笑んだまま俺に手を振って、俺を置いて行く。俺は「ああ、またか」と思い、ある程度整理のついた思い出が薄れていくのを見送りながら、日光の明るさが瞼を透かすのを感じていた。

するとそこで、何かが俺の頬をぐいぐいと押す。薄目を開けて様子を窺おうとしたとき、目の前に起き抜けのキコちゃんがいて、彼女は心配そうに俺を覗き込んでいた。

「あ、おはよ…」

俺はその時点でもうすでに胸がどきどきとして、早く起き上がって彼女とちょっと距離を取りたかったけど、キコちゃんはこう言った。

「かなしい夢、です…?」

「え…」

俺が「なんでわかったんだろう。もしかして変な寝言言っちゃったかな」と思っていると、キコちゃんは俺の頭の上まで頑張って腕を伸ばして、手で撫でようとしてくれた。でも、キコちゃんはバランスを崩して、俺の顔に向かって倒れ込んでしまったのだ。

「きゃっ!」

「んむ…!?」

俺たちは同時に叫び声を上げたけど、俺の口と鼻はキコちゃんの体に塞がれていた。つまり、彼女は俺に向かって覆いかぶさる形だ。彼女の体の小さく柔らかな曲線が、俺の鼻と口を覆っていた。


死ぬかと思った。本当に死ぬかと思った。むしろさっさと穴を掘って埋まりたかった。

「きゃー!ごめんなさい!ごめんなさい!」

「いや!俺こそごめん!本当にごめん!」

キコちゃんはそのあとも俺に謝っていたけど、すごく恥ずかしそうだったし、むしろ初めに謝るのは俺なんじゃないかと思った。そうやって「ごめんなさい大会」をしているうちに、悪夢を見たことなど、俺は忘れていた。