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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「キコちゃんはちょっと小さい」〜完結編〜

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そして、ジャムが乗ったビスケットのとき。それは、俺の告白から5日経ち、スーパーで新しく買って帰るお菓子を物色して、食べたことのないお菓子に喜ぶキコちゃんの顔を思い浮かべ、俺が胸をホクホクとさせながら家に帰った日のことだ。

いつものように彼女に迎えられ、部屋着になって彼女とテレビを観るときにビスケットをキコちゃんに渡すと、彼女はまたとても嬉しそうにそれを食べていた。

「素晴らしいです!とても美味しいです!この赤いのが、サクサクの“びすけっと”とよく合います!」

“赤いの”とは、いちごのジャムだ。

「うんうん、そうだよね、それ美味しいよね」

俺が何気なくそう言うと、彼女は振り返って俺を見つめた。

「どうしたの?」

彼女はどこかさみしそうな顔をしたあと、俺に向かってビスケットの残りの欠片を差し上げた。俺は、“「あーん」がまたしたくなったのかな?”と思ってちょっと恥ずかしくて、「俺は大丈夫だよ」と言いかけた。でも、その前に彼女は潤んだ目つきで俺を見上げて、こう言ったのだ。

「キコだけこんなおいしいもの食べるなんて、キコ、ずるいです…!一也さんにも食べて欲しいです…!」


よく俺はあのとき正気でいられたなと思う。なんて健気で、なんていじらしいんだ。君は天使か何かだったのか、キコちゃん。



そんなこんなで俺は、「特に何も変わっていない日々」なのに、「初恋」として過ごすのには命がいくつあっても足りないのではないかという、とても大変な毎日を過ごしていた。



俺は今、学校からの帰り道を、バス停を降りてテクテク歩いている。今日のホームルームで、担任の東先生が言ったことを思い出しながら。


「では一同、夏休み中は健康に気をつけて、課題はとりあえず終わらせておくくらいの気合いは見せるよーに。それから、先生から付け加えることがある!」

そう言って先生は出席簿で教卓を一つ叩いた。

「花火を人に向ける!ふざけて人を川や海に突き落とす!崖や山なんかの立ち入り禁止区域に入る!こういう奴らには、必ず先生が自慢の両腕で制裁を下す!よーく覚えとけ!それでは夏休み、きっちり思い残しのないよーに!解散!」

まあ、正しい大人の意見だ。でも先生、あなた学校の教師でしょ。もうちょっと課題に関する話のウエイトは重くてもいいんじゃないかと思います。あと、あなたの「自慢の両腕」は、それらの危険を冒すこと以上に、俺たちにとって危険な場合もある気がするんですが。

そうは思ったけど、まあそれでクラスメイトは全員元気に返事をしていたし、本当にうちのクラスは平和だ。いい先生に当たったよな。


夏休みか。思い残しのないように過ごすには、やっぱり…。俺はその先を考えるのさえ躊躇するつたない心で、家で俺を待つキコちゃんのことを考えていた。