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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「キコちゃんはちょっと小さい」〜完結編〜

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最終話「彼女との始まり」






いつも通りに帰宅して、足元に彼女の小さな姿を見つけるのだろうと思っていた。でも、彼女はそこにはいなかった。それから俺は、部屋の奥から走ってくる彼女を思い浮かべながら、そちらの方を見る。そして、そのまま俺は、体も、頭も、動きがまったく止まってしまった。


ピンクの長いワンピースの腰に白いリボンを巻き付けて、長い黒髪を豊かに下げ、彼女が俺を振り返る。大きな黒い瞳が俺を見て、どこか悲しげに光った。その瞳の高さは、俺よりほんの少し下にある。


つまり彼女は、キコちゃんは…普通の人間と同じ大きさになっていた!


「え…キコちゃん…それって…!」

俺はすごく驚いたけど、嬉しかった。彼女の美しさは元のままで、俺と同じような背の高さなのだ。これなら、「人々の好奇の目に彼女が傷つけられるのではないか」なんてことを気にして、彼女をここに閉じ込めっぱなしにしなくていい。堂々と街を歩かせてあげられる。それに、キコちゃんが行きたがっていた、海にも、山にも、レストランにも、それこそどこにだって、彼女を連れて行ける!

俺は靴を脱ぐのも忘れてしまって、思わず笑い声が途切れ途切れに口から漏れた。なんと言葉にしたらいいかわからないほど驚いて、そして嬉しかった。でも、俺が見つめているキコちゃんは、いつまでも悲しそうな顔をしたままだった。俺は喜びが落ち着いてきたとき、それに気づいて少し不安になった。

俺が彼女の悲しみを感じ取るのを待っていたように、キコちゃんがやっと一言口を開く。

「一也さん、ごめんなさい…」

キコちゃんはとても残念そうで、それにさびしそうだった。俺はどうして彼女がそんな顔をするのかがわからない。だって、大きくなれたなら、彼女ができることはたくさん増えるのに。

「…なんで謝るの…?」

そこでキコちゃんは俺に背中を向けて、部屋の窓際へと歩いていった。そして、顔だけで俺を振り返る。どうしてそんなに悲しそうに、俺に謝るんだろう。なんだか俺は、不安で仕方ないじゃないか。彼女が大きくなれたことの喜びが、少しずつしぼんでいく。

キコちゃんは何度か何かを言おうとして、そのたびに唇を噛んだ。でも、彼女は話を続ける。

「私、もう行かなきゃ…」

“行く”?どこに?それに、そんな“もう帰ってこない”みたいな言い方、しないでよ。

「…どこに…?」

俺はだんだんと不安が高潮して、息が苦しくなってきた。そして心の中に、少しだけ焦りが生まれる。

なんとかしなくちゃ。彼女をここに引きとめないといけない。キコちゃんは急に大きくなったから、きっと何か考え違いをしていて、ここから離れないといけないと思っているだけだ。だからちゃんと大丈夫だと言って、彼女を引きとめなくちゃ。

俺は慎重に彼女の次の言葉を吟味して、説得にかかろうと思った。彼女はうつむいて顔を伏せ、また言いにくそうに言葉を途切れさせる。

「…自分の家がどこなのか、思い出したんです…それに、そこで自分が何をしなきゃいけないのか…」

“家”…?

キコちゃんにはやっぱり家があったのか!そこに帰りたいんだ!でも、どうしよう?彼女が家に帰りたがるなら、俺は止める権利があるんだろうか?でも、でもきっと、外で会うことだってできるだろう!

「それは、どこ…?」

俺は、“あまり遠くないといいな”と思った。遠くなければ、俺だって頻繁に会いに行ける。

キコちゃんは俺の様子をちらりと見て、ますます悲しそうな顔をした。そして俺に、こんなふうに話した。

「驚かないで、聞いてくださいね…驚くと思うんですけど…」

彼女は今までで一番気が進まないように口を開き、こう言った。


「私、天使の試験の最中だったんです。…合格だそうです。だから、帰らなくてはいけません…」


「…は…?」