北へふたり旅 76話~80話
北へふたり旅(79) 札幌へ④
噂通り、ホテルの朝食は豪勢だった。
海鮮丼をはじめどれも新鮮な素材が食べ放題のバイキング。
妻はほかの物に目もくれず、一目散に山盛りのイクラの前。
イクラは国産の極上品。海のダイヤの粒はおおきい。
白米へたっぷり盛り付けた。
おわりかなと思ったらさらに小鉢へ、イクラを盛りつけている。
「お替わり用です。うふ。北海道のぜいたく。
ひとつめの夢、極上のイクラをお腹いっぱい食べる。
それがもう満たされました。
ああ~美味しかった・・・しあわせです!」
部屋へ戻るなり、しあわせですと踊り出す。
「今朝のイクラでホテル代を取り返しただろう?」
「夏です。カニは無いでしょ。そうなれば本命は当然イクラ。
満喫しました。
さて恋の町札幌をめざして、出かける準備をしましょうか」
「恋の町札幌?」
「あら。裕次郎の歌ですよ。しらないの?。
♪~時計台のしたであって、私の恋ははじまりましたぁ~♪」
「君は札幌で恋をしたいの?」
「鈍いわね。そのくらい幸せという意味です。
さぁ仕度しましょう。もう気分は札幌の空の下。
いまころはジェニファも、札幌を目指して準備をしています」
「ジェニファ・・・?。誰だ、それ」
「今朝、ご一緒に散歩した中国のご婦人。
英語名をジェニファーというそうです」
「へぇぇ。じゃちなみに旦那の英語名は?」
「・・・ロッキーだったかしら。
それともクリントだったかしら?」
「映画俳優か、ジェニファーの旦那は」
「わかりやすい英語名か、キンキラの英語名をつけるのが、
中国の流行りだそうです」
「なぜかれらは自国の名前を名乗らず、わざわざ英語名を使うんだ?」
「中国人の名前はとてもユニーク。
外国人に面白く聞こえることもあるそうです。
そのため、多くの中国人が英語の名前を持っています。
たとえば香港の映画スター、ジャッキーチエンの本名は、
成龍(シェンロン)。
カンフー映画のさきがけ、ブルース・リーは、李小龍(レイシウロン)」
「初耳だ・・・知らなかったなぁ」
「急ぎましょ。ジェニファと市場で会う約束をしています」
「市場って、函館の朝市か?」
そうよ。他にないでしょ。あなたも準備を急いでくださいと妻が促す。
時刻はまだ8時をすぎたばかり。
乗車予定のスーパー北斗7号は、函館駅発10時05分。
時間はまだじゅうぶん過ぎるほどある。
「もう出るのかい?。早くないか?」
「朝市は6時から開いているそうです」
「なら問題ないな。わかった。準備を急ぐとするか」
「そうしてくださいな。
いまごろ市場でジェニファーが首を長くして待っていると思います。
うふっ」
(80)へつづく
作品名:北へふたり旅 76話~80話 作家名:落合順平