北へふたり旅 76話~80話
北へふたり旅(77) 札幌へ②
「旦那さんは?」
「ジャーン フゥ(旦那?)
ホーァ タイ ドゥオ リヤオ(呑みすぎて)
ザイ シュウイ ジュエ(まだ寝ています)」
市電通りを横切る。ちかくに魚市場通りの停留場が見えた。
「市電。はじめて乗りました」
中国のご婦人から日本語が飛びだした。
なにかを見つけるたび、妻が日本語で教えている。
次の交差点がやってきた。角に白亜のおおきな大きなホテルが建っている。
ホテルショコラの文字が見える。
「このあたりに1キロ通りと書かれた標識があるはずだけど・・・」
「あら。公式名ですか。1キロ通りというのは・・・」
「そうだよ。ちゃんとした函館市の公道だ」
「あ・・・ありました!。あんな高いところに」
妻が指さす先。3メートルの高さに1キロ通の標識がある。
ほんとに高い位置だ。
記念撮影のためには反対側の歩道へ行かないと、人と標識がいっしょに写らない。
「記念写真を撮りましょう」
妻が反対側の歩道を指さす。
「いいわね。それ」中国のご婦人がいきなり横断歩道へ足を踏みだす。
車は来ていないが、信号は赤だ!。
危ない。自殺行為だ。
しかし婦人は涼しい顔をしたまま、平然と渡っていく。
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。みんなで渡れば怖くない」
たしかに朝早い道路に車の姿は見当たらない。
(君が教えたのかい?。あんな危険な日本語を?)
(冗談半分で教えたのよ。でもまさか実行に移すなんて・・・
大胆ですねぇ。大陸で産まれた方は)
(とにかくルールを守らないからね。中国人は)
(そうなの?)
(バスや電車に乗る時、日本人は列にならんでちゃんと順番を待つ。
扉が開いたら、中にいた人が降りるまで待つ。
最後のひとりがおりてから、列をまもり乗車する。
ところが中国はまったく違う)
(どう違うの?)
(列なんか無い。人のかたまりが有るだけ。
扉が開くと自分の席を確保しょうと、なかへ突入していく。
車両の中から外へ出ようとする人もいる。
そうなるととうぜん、出口のあたりでもみ合いが発生する。
デモ隊へ機動隊が突入していく場面を想像するとわかりやすい)
(まさか!)
(さいきんはマナーが向上したらしい。
しかし昔は日常茶飯事だった。
これ以上、中国のご婦人が暴走すると厄介なことになる。
君。責任をもって手をつないで歩いてくれ)
(知りませんでした。軽率でした)
責任をもって対応しますと、信号が青になるのを待ち、
妻が横断歩道を駆け出す。
婦人はすでにスマホを構え、記念撮影の準備をととのえている。
「あなたは?」
「ぼくはいい。標識の下で通行人のふりをする」
「わかりました。さりげなく映しますので笑顔をくださいな」
「通行人が笑顔を見せるのか?」
「中国と日本の美女2人がお願いしているの。断れないでしょ。
写しますよ。笑ってくださいな。はいチーズ!」
(はいチーズか・・・いまじゃ昭和の死語だな)
(78)へつづく
作品名:北へふたり旅 76話~80話 作家名:落合順平