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58の幻夢

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7.曇天ラバー



 祐美さんに初めて会った日は、曇り空だった。その次に会った日も曇り空だった。初めてデートした日も、「好きです」って告白した日も、キスした日も、セックスした日も、いつだって曇っていた。
 いつ頃からそんな事にきづいたかは覚えていないけど、なんか会うたびにスッキリしない気分だったな、ってのだけは覚えてる。

 サッカーを観に行っても曇りだし、動物園に行っても曇りだった。買い物をしても曇りだし、その後食事をしても曇り。ドライブの時もそうだったし、初詣もお花見も花火大会も紅葉狩りもクリスマスも曇り空。僕の家に来た日も、祐美さんの家に行った日も、空には灰色の雲が覆ってた。
 二人で、沖縄に旅行した事もあったっけ。海はきれいだったし、祐美さんの水着姿は素敵だったし、沖縄料理おいしかったし、サーターアンダギーもおいしかったし、首里城も見てきたし、すごく楽しかった。でもやっぱり、晴れや雨の記憶がない。

 そういえば、一度だけ晴れた日があったなあ。でも祐美さんから「風邪ひいたから行けない」って、携帯に連絡があって。心配してお見舞いに行ったら、着いた瞬間曇りだした。

 ここまで来ると、さすがに偶然じゃすまなくなって。祐美さんって、曇り女なんだなって思うようになったんだ。
 でも、雨男や雨女ってのはよく聞くし、反対の晴れ男晴れ女ってのも聞くけど、曇りって正直地味だなって思った。あ、でも祐美さんは大好きだけどね。

 ある日、祐美さんの故郷が、水害で大変な事になったんだ。もう二週間近く雨が止まなくって、土砂崩れの危険もあって。家族や友人が心配な祐美さんは、「危ない」って僕が止めるのもきかず帰っちゃった。そしたら、地元の駅を降りた瞬間、あれだけ降り続いた雨がピタッとやんだんだって。結局、家族も友人も無事で、祐美さんも何事もなく戻ってきた。

 その事があってから、僕は曇りの日を少し見直した。よく考えたら、雨や雪でイベントが中止になるような事はない。日差しが強くて汗まみれになる事だってない。これってかなりすごい事なんじゃないかなって、思うようになったんだ。

 そう考えると、ますます祐美さんが愛しく思えてきて。僕は指輪を用意して、きれいな夜景の見える場所に、祐美さんを誘った。案の定、その日も曇り空だったけど、夜景を見ながら指輪を祐美さんに渡して、「結婚しよう」って言ったのさ。

 そしたら祐美さん、快晴の笑顔で「はい」って返事をしてくれたんだ。


作品名:58の幻夢 作家名:六色塔