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58の幻夢

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29.続 きりん



 きりんのジラ希との挙式から十日ほど経ったある日、電話が鳴り響いた。

「取材をさせてくれませんか」

話を聴いてみると、ビックリ人間をまとめているサイトのライターらしい。きりんと結婚した私に一日密着取材をしたいそうだ。謝礼はもちろん出すという。

 普段なら即座に断るのだが、今回は少し事情が違った。式の費用がかさんで、貯金がすっからかんなのだ。見世物になるのは御免だが、今はお金が欲しい。もうみんな言いたい事を言えばいいさ、そんな捨鉢な気持ちだった。


 記事が載ってから数日後、今度はジラ希を譲ってくれた動物園から連絡があった。

「ネット見ましたよ。きりんの世話をあんな見事にしているとは思いませんでした。ぜひうちの従業員になりませんか」

お世辞は無視して話を聴く。従業員の条件は決して悪くない。特にジラ希と出勤し、他のきりんと共にジラ希と生活をし、退勤時はジラ希と帰れるという点は大きな魅力だった。仕事中、ジラ希が機嫌を損ねて家を壊す心配をせずに済むのだから。

 しかし、実際の仕事は予想とは違っていた。てっきり飼育員の仕事だと思っていたが、「きりんのことを勉強しよう」「きりんに木の葉をあげよう」といったイベントの司会が大半で、飼育員の仕事はほとんど無かった。
 だが、きりんと結婚したあの有名人がいるとすぐ話題になり、イベント参加人数も園の来場人数も右肩上がりになっていった。

 だしにされた感は強いが、私も経済的に楽になったし、なによりこの動物園にはジラ希を譲ってくれた恩がある。今日も子供たちの歓声の中で、何とか仕事を続けている。ただ、「相方当てクイズ」という、数頭のきりんから私にジラ希を当てさせる企画だけは止めてほしい。毎回当ててはいるが、内心ひやひやなのだ。


 最近、アパートの大家も上機嫌だ。噂では、孫がジラ希を見たがるので、娘夫婦が頻繁に尋ねてくるようになったらしい。あの頑固者も孫はかわいいようだ。ま、更新料はまだ2倍のままだが。
 私の家族も、少しずつ理解を示しはじめた。母は、月に一度はメールで安否を尋ねてくるようになった。兄も、会社の同僚に私のことを吹聴しているらしい。父は「勘当する」と言った手前、直接連絡はしてこないが、慣れないパソコンでよく私の記事を見ていると母が言っていた。

 なんとか、少しずつではあるが歯車がかみ合い始めた気がする。そんな私の想いを知ってか知らずか、ジラ希はやっぱりひと声鳴き声を上げた。


作品名:58の幻夢 作家名:六色塔