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58の幻夢

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8.きりん



 きりんと結婚したい。

 何を言ってるのかわからないかもしれない。でも、もう溢れ出す気持ちは押さえられない。動物園から愛しのきりんを譲り受け、まず手続きの為に役所へ向かう。役所への道で、婚姻届を書くのにきりんに名前が必要な事に気がついた。しかし、きりんに名前を尋ねても答えてくれない。というか、名前など無い可能性が高い。仕方がないので、独断でジラフのジラ希という名前を付けてあげた。

 役所で理由を話すと、職員は苦りきった顔で
「動物との婚姻届は受理できません。ペットとしてなら届出書を出せば可能です」
そう言うだけだった。
 配偶者をペット扱いするなんて。私も憤慨ものだが、その手の団体等は声を大にして抗議しないのか。しかしそんな事を言っても、背に腹は代えられない。この国の制度に矛盾を感じつつ、書類の空欄を埋めていく。その間、ジラ希は役所前で街路樹の葉をはむはむと貪っていた。


 差し当たってやらねばならない事は、家の改装だった。今のままの住環境では、ジラ希は首を伸ばす事も不可能だ。
 住んでいるアパートの上の部屋が空いていたので借り受ける。そして上階の床をぶち破って、下から吹き抜けの形にした。上階の窓からジラ希の顔が覗く。高さはちょうど良さそうだ。だが、それを見た大家は烈火の如く怒った。確かにこれでは他の住人も迷惑だし、大家の言い分もまあわかる。しかしこちらも愛するジラ希の為だ、おいそれとは引き下がれない。粘り強く交渉し、更新料を2倍にする事で大家は折れてくれた。こうして、なんとかジラ希との住まいは確保できた。

 さて、次はジラ希と式を挙げようと、結婚式場へと赴いた。予想はしていたが、どこの式場もジラ希が入らず、式は難しいとの事。最終的にプランナーの提案で、公園での挙式にした。緑も多く、下見の際ジラ希も喜んでいた。
 ジラ希の親族は、どこかの動物園に居るだろうが消息は掴めないと、譲り受けた動物園から連絡があった。私の親族はというと、きりんとの結婚を嘆く母、精神科への入院を勧める兄、一言「勘当する」と言ったきりの父。……誰も出席する気はないだろう。友人にも招待状を送ったが、返信はなかった――不参加の返信すら。どうも、性質の悪い冗談だと思われたらしい。結局、式は私とジラ希の二人だけになりそうだ。

 困難は多いけど、それでもジラ希を幸せにしてやりたいと思う。そんな私の想いが通じたのか、ジラ希はひと声鳴き声を上げた。


作品名:58の幻夢 作家名:六色塔