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58の幻夢

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17.深更記



 眠れない。
 日付が変わって数時間ほどたった深夜。いつもなら寝ついているはずの時間なのに、私の目は冴えていた。特に眠れなくなるようなことをした覚えはない。カフェインを大量に摂取した記憶はないし、昼寝などももちろんしていない。スマホは長時間見ていたかもしれないが、それはいつものことだ。無理に眠ろうとするが、かえって目は覚めるばかり。いっそのこと起きていようか、そう思い布団をはねのけた。
 闇の中、手探りでトイレの電灯をつける。用を足して電灯を消し、辺りが闇に戻ったとき、ふいにのどの渇きを感じた。近所のコンビニで、何か飲み物でも買ってこよう。外の空気を吸えば、もしかしたら眠くなるかもしれない。寝間着から、人に見られてもいい格好に着替え、静かに玄関の扉を開いた。

 深夜に見る外の景色は、思いのほか新鮮だった。夜遅く家に帰ることはないわけではないが、ここまで人の気配がない街は初めて見る。親しい人の別の一面を垣間見るような感覚を携えて、コンビニへと歩き出す。
 道では誰とも出会わなかった。ランニングをする人や、たむろする若者がいるかと思ったが、人っ子一人いやしない。車は数台ほど走っていたが、どれもお客を乗せたタクシーだった。

 コンビニに入ると、テンションの低い「いらっしゃいませ」という声が響く。バイトの店員もまず客など来ないという認識だったのだろう、一瞬だけこちらの顔を見てすぐ品出しに戻った。 普段コンビニへ行くと、まず雑誌コーナーを見る癖がある。今回もその例にもれず、気づいたら雑誌の棚の前にいた。特に読みたいものなど無かったが、いくつか雑誌を手に取り流し読みして雑誌コーナーを後にする。
 お茶のペットボトルを掴んで、レジに向かう途中弁当などを眺めていたら、小腹がすいてきた。あまり夜に食べるのは良くないとわかっているが、誘惑には抗えずにおにぎりを手に取ってしまう。
 会計を終えコンビニから出ると、駐車場に大きいトラックが止まっていた。トラックの運転席から、大柄な男性が降りてきて、私と交差する。男性の体格が大きかったせいだろうか、すれ違うとき無意識に頭が下がっていた。
 家に戻って一息つくと、カーテンの隙間から光が少しだけ漏れ出してきていた。私はカーテンを開け、まだ力の弱い陽光を部屋に招き入れる。

 おにぎり、夜食じゃなくて朝食になっちゃったなと思いながら、私は今頃になってやっとまぶたの重みを感じ始めたのだった。


作品名:58の幻夢 作家名:六色塔