58の幻夢
23.夢雪報
とても寒い日だった。
スマホのアラームを止め、まだ眠りたい気持ちを振りほどいて布団からはい出る。寒さに身を縮こまらせつつ、部屋の隅にある電気ストーブのスイッチをひねった。ストーブが熱を吐き出し始めても、ひしひしと寒さがにじり寄ってくる。結露した窓を滑る水滴を眺めながら、出社の支度をしようと思った。しかし、どうしても今日は会社に行こう、という気にはなれなかった。有休を取って会社を休んでしまおう。今日は一日家に閉じこもっていよう。そう決め込んで、ついさっきアラームの仕事を終えたばかりのスマホに、もう一仕事依頼する。
うしろめたい会社への連絡を終え、どてらの前をかき合せて再び布団に潜り込む。読みかけの本をなんとなく眺めているうちに、いつの間にか深い眠りに落ちていった。
僕は、エリちゃんと二人で大雪原にいた。
右も左も天も地も、どこまでも真っ白く広がっている世界。
僕とエリちゃんは、その純白の中で雪玉を転がした。
大きくなった雪玉でできた、いろんな表情の雪だるま。
それが、野球でもサッカーでも何でもできるくらい、たくさん立ち並んだ。
雪だるま作りに飽きたあと、僕らは雪合戦をしようと決めた。
僕とエリちゃんは少し距離を置き、お互いに陣地と雪玉を作りだす。
エリちゃんは、普段は病弱な女の子だった。
風邪をひいたり、おなかを壊したりして、しょっちゅう学校を休んでいた。
だけど、今日のエリちゃんは違っていた。
素早い動きで僕の雪玉をかわしつつ、上手に雪玉を繰り出してくる。
一瞬で間合いを詰めたエリちゃんは、
至近距離の僕に向かって全力で雪玉を投げつけた。
エリちゃんの投げたその雪玉が迫ってきて、
僕の顔面に当たった瞬間、眼が醒めた。
しばしの間天井を眺め、一部始終が夢であった事、今眠りから醒めた事を把握する。そして、とろとろとしたまなこで傍らのスマホをつかみ取る。時刻はもう昼を過ぎていた。
スマホには、母親からのLINEが届いていた。おさななじみのエリちゃんが、今朝病院で息を引き取ったという内容だった。
先程の夢をハッと思い出す。あの夢は、エリちゃんのこの世での最後のメッセージだったのだろうか?
そう思った瞬間、夢で見た迫りくる雪玉が眼前に浮かび上がった。雪玉はどこまでも大きくなって、雪の結晶体一つ一つさえも鮮明になる。
その映像は、脳裏にこびりついてずっと離れようとしなかった。