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短編集80(過去作品)

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 目の前のろうそくの炎が次第に消えかかっている。目の前の女性を良子だと思っていたが、消えかかる炎に包まれながら女性の顔が変わっていく。
「千尋」
 思わず声を掛けてしまったが、千尋は微笑んでいるだけで応えない。
 目の前に鎮座しているのが本当に千尋だったかどうか分からない。だが、自分中心の武雄が消え行く炎の中で見た顔、それは千尋だったのだ。
――消えてなくなってしまいたい――
 こう感じていたのは弟だったのだろうか? それとも武雄だったのだろうか?
 自分の死というものが近づいて何を感じるか、武雄にとってそれこそ他人事としてしか見ることができないに違いない。
 消え行く炎を見つめながら武雄は何かを考えていた。それは武雄にも分からない……。

                (  完  )
作品名:短編集80(過去作品) 作家名:森本晃次