小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

哀れな中年の愚かな夢

INDEX|3ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 待ち合わせをした料亭は上品な佇まいの店だった。レモンが家族でよく来るらしい。約束の時間より早く着いたので、先に部屋に入ってレモンを待った。予約していた部屋は、仕切られた八畳くらいの広さだった。ドキドキソワソワしながらレモンの来るのを待った。
 障子を開けると駐車場が目に入った。何台か車が到着した後、ピンクのミニクーパが停車した。レモンがどんな車に乗っているかを聞いてはいなかったが、瞬間、「これだな」と思った。
 車から降りてきた娘は、清楚で上品な感じがした。服のセンス、身のこなし方、明らかにお嬢様だと思える品がある。ノブナカは、娘の品のいい横顔を見て、レモンだと確信した。しばらくして、仲居に案内されてレモンが部屋にやってきた。襖を開ける前に、「お邪魔します」と小さな声で言った。
 正面に座ると、レモンは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
 ノブナカは、こんな機械にけち臭いことは出来ないと、一番高い懐石料理と生ビールを注文した。
「エヘヘ、何か恥ずかしいですね」
 レモンは、本当に初対面の人に会うことが苦手と言ったが、それは本当かもしれない。ここのところ、携帯では、言いたい放題言っていたのがウソのようにしおらしい。
「本当に会ったンですね」
「本当だね、だけどさっきから何か変だと思ってるんだけど、声だけで今までやり取りしていたから、実際に会って話すと、何か違和感あるよね」
「そうですね、ワタシも同じ感じ」
「だけど、本当に会ってくれて嬉しいよ。これ約束のケーキ」
「ウワー、うれしー、有難うございます。中見ていいですか?」
「いいよ、どうぞ」
 レモンは、ケーキの箱を開けて、嬉しそうに笑った。
「これ、家族で食べていいですか?」
「いいよ、是非」
「母が、喜ぶと思います」
 レモンは、電話で膨らましたイメージより、少し大人びて、清楚な感じを受けた。ノブナカも緊張を解きほぐすために、レモンと乾杯をして生ビールを一気にグラスの半分ほど飲んだ。
「ワタシ、食べていいですか?」
「どうぞ。食べましょう」
 レモンは、気取らないも、上品かつ旺盛に食べ物を口に運ぶ。ノブナカは、こんな品のよい女性の食べっぷりを見たことがない。
「どうです、僕は電話のイメージと違いますか?」
 一瞬レモンは、考える仕草をして、
「やっぱり、田中健に似てるかなぁ、それとー、真田広之にも似ているような気がするかな」
 少し酔ったらしく、頬がほのかにピンク色になっている。
「ワタシは、どうです」
「そうだね、ペコちゃんっていう感じはしないけど、笑った顔がいわれてみればそうかなって気もする」
 レモンは、面と向って話すときは、すぐに、「エヘへ」といったふうに顔を右に傾け少し右肩を上げるようにして笑った。
 
 六

 二人は、二時間近く店に居て、その後ドライブをした。
 レモンの住む街は、ノブナカの住む町の隣県になり、県庁所在地のその街は、全国的に温泉と俳句で有名であった。その街をドライブしながら、彼女の声を聞きながらの会話になると、違和感がなくなるのだった。
「レモンちゃんさぁ、僕と知り合いになる前に付き合っていた男にリベンジしたいといっていたよね」
「そうよー、だって、あいつだけは許せないの」
「その男が僕と同じ県の出身だったから、僕と最初に話したとき、一瞬絶句してたものね」
「そうだよ、だってあの男と一緒の人格だと思うと、嫌だったの」
「その男に、君は一体何をされたの?」
「今は、言えないけど、ゼッタイ、あの男は許さない」
 レモンは、ノブナカを知る直前まで、その男と付き合っていた。レモンは、ノブナカと最初に電話で話したときから、その男のことは許さないと言っていた。その男に何をどうされたのかは、詳しくは分からないが、断片的な話しを繋げていくと、男と交わした約束、それが結婚話であったのかどうかはわからない、を破って他に彼女を作った。そして、その男に暴力を振るわれたことを泣きながら話したことがあった。しかし、それ以上の細かいことにはレモンは触れなかった。
 街の郊外までドライブして、日が暮れかかり始めたため街に戻った。
「じゃあ、これをきっかけにこれからは会ってくれるね?」
 レモンが車を降りるとき、ノブナカが言った。レモンは、静かに肯いた後、ノブナカをみて少しはにかんだように笑った。
「じゃあ、また」
「今日は、有難うございました」
 レモンは、上品な身のこなしで、助手席からたち上がり、最後に会釈してピンクのミニクーパに乗り、夜の帳が降りた街の中に走って消えた。

 ノブナカは、帰る道中鼻歌気分であった。
「なんと上玉な娘にめぐり合ったことか」と一人ほくそえみ、満足げな気分で一杯だった。レモンとなら、エッチ抜きでも十分付き合える。彼女は、そんじょそこらの安っぽい女とは違う。上品で知的で清楚でキュートでとにかくいい。ノブナカは、完全にレモンに入れ込んでしまった。
 それにしても、レモンが最近まで付き合っていた男は、あんな健気でカワイいレモンにどうして、暴力を振るったのか、世の中には、ろくでもない男がいるもんだと思った。

 七

 二週間が過ぎて、二度目のデートをすることになった。その間も、レモンとはほぼ毎日のように携帯で話していた。話しの内容は、いたってありきたりの内容ばかりで、今日何していたとか、何を食べたとか、ほとんど十代の子たちが話す内容と少しも変わらない。時々は、中年特有の嫌らしい話しもする。と、いうかどちらかといえば、レモンの方から、
「オクさんとイッパイエッチしてるのー、どんなエッチしてるの、あーヤダー、どうせオクさんのアソコをベロベロナメツクシテイルクセニ」
「そんなことないよ、女房とは、本当に半年に一度あるかないかだから」
「ウソオッシャイ、ゼッタイに、イヤラシイセックスシテイルンデショウ、アアー、イヤラシー」
 とか言って、こちらに挑発してくるような言い方をする。
「そんなことが一杯あるのなら、レモンちゃんと会うこともないよ」
「ホントウカシラ」
「本当だって、今我が家は、夫婦間に溝が出来ているンだ。だから君の癒しが僕の慰めになっている」
「ソーオ、ワタシはミンナカラ、キミはイヤシケイだとイワレルノヨ」
 と言って、レモンは得意になる。
 二度目のデートの行き先は、レモンの街とノブナカの町の中間に位置する観光地にドライブすることにした。料亭で懐石料理を食べることが目的だった。彼女は、そこの料理の一つ一つにケチを付け、全体的に料理がいまいちらしかった。レモンは相当舌が肥えているらしく、ノブナカには十分過ぎる懐石料理でも納得しない風だった。
 行きはレモンの気分も良かったが、レモンによれば、自分の住む街から遠く離れたところに来ると、少々精神的に不安定になるらしい。遠いと言っても車で二時間程度の距離ではあるが。
 帰る道中レモンの態度が明らかに不機嫌だった。どうして、不機嫌なのかはこのときのノブナカには知る由もない。
「どうしたの、どこか気分でも悪いの?」
「いいえ別に」
「何か、気に障るようなことでも言ったかね?」
「いいえ」
作品名:哀れな中年の愚かな夢 作家名:忍冬