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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

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Episode.18 孤独








僕たち第一班は、春喜が口にしたことにより僕一人が抜けることになって、やっと団結した僕たちは、引き離された。


でも、その前にまた敵襲が二度あった。




その日の兵長は、尋常ではない事態に焦りを隠せない様子で叫んでいた。

「監視者の話では、モンスターはここから10キロ地点で突如姿を消した模様!なんらか能力のある可能性が高い!住民には街の逆側へ避難命令を出した!」

「充分に警戒して、一班と二班は組んで行動し、後方支援は三班が行う!私も二班について、全員で任にあたる!四班は門の内側に待機!全員くれぐれも気を抜くな!」

全員、腹の底から「はい!」と返事をし、すぐに馬車に乗った。

大きな馬車は林の中をガタゴトと踏み鳴らし、そして兵長が街の門を開ける。

すると、遠くに何かがちら、と見えた気がした。僕は見逃してしまいそうだったけど、兵長は金切り声を上げた。

「全員早く出ろ!こちらへ向かってる!食い止めろ!」



街の門が閉まる前に三班までの兵が走り出て、兵長の指示に従って全員が横並びの二列になり、それぞれ力を揮うべく手を差し上げたり、銃を構えたりした。

「探せ!必ず近くに居る!絶対に門を越えさせるな!」

すると、ヴィヴィアンがまず初めに叫んで指を指した。

「居た!あそこだ!」

でも全員モンスターの姿は見えず、ヴィヴィアンはすぐに両手を振り上げ、一度爆撃を放った。土煙が舞い上がり、僕たちの方へも爆風が飛んでくる。そして、その土埃が晴れた時、僕は見た。

体の一部が透明に透き通り、そしてみるみるそれがモンスターの巨体を覆って、完全に透明になったのを。

僕はその間になんとか右手をモンスターに向け、「消えろ!」と念じる。しかし、すぐそばで爆音のような地面を叩く音がし、「ぎゃあっ!」という叫びが上がった。

軍は一気に全員が浮足立ってあちこちから悲鳴が聴こえ、それにさらに混乱を投じるように、次々と地面がドシンドシンと揺れる。

兵士たちは地面に叩きつけられ、門に向かって投げ飛ばされた。「兵長!無理です!見えません!逃げましょう!」とある者が泣き声を上げた。

「馬鹿者!街に入れたが最後だ!絶対に仕留めろ!」

僕は必死で見えないモンスターめがけて右手をかざすために、あちこち目を向けた。でもそれはなかなか見えず、戦場には血が溢れていった。

「どこだ!姿を現せ!ちくしょう!」

僕がそう叫んだ時だ。

「ぎゃああっ!」

はっとして振り返る。土埃の中で僕の足元に居たのは、体を潰されたヴィヴィアンだった。


「ヴィ…ヴィヴィアン…」


そんな。こんな傷じゃ…吹雪にだって…。


ヴィヴィアンは腹から下のすべてを潰され、あたりにはその血と肉が飛び散っていた。


血の染みた土が真っ黒で、僕はその光景に一瞬すべてを忘れ、呆然と立ち尽くす。闘いの轟音はどこか遠くに聴こえた。


その様子を薄目を開け見ていたヴィヴィアンが何かを喋ろうとするので、僕は屈み込んでそれを聴こうとした。


ヴィヴィアンは呼吸の出来ない中、ゆっくり、最期の言葉を紡ぐ。


「何…グズグズ、してんだい…闘いは…続いてるんだよ…」





それからのことは、よく覚えてない。僕はとにかく、叫ぶことから始めた。


そして街の門を背にして、「消えろ」と念じ続け、目の前にある莫大な空間そのものを消しに、全力を右手のひらに注いだ。

残ったのは、更地になったように岩すら削れ、埃も立たなくなったまっさらな大地だった。


あの兵長までもが恐れおののき、僕が近付くと一歩後ずさった。



「兵長…終わりました」






ヴィヴィアンと数人の兵士の葬儀はそれぞれしめやかに執り行われ、僕たちは、ヴィヴィアンがこの地でも元の世界でも天涯孤独だったことを、その時にやっと知った。

兵士たちはみんな泣くのを堪え、アイモだけは葬儀の最中も、棺を墓地に納める時も泣き続け、ヴィヴィアンの棺に縋りついた。

僕はその泣き声を自らの胸に突き刺すように刻み込みながら、涙を流しはしなかった。


彼女の男勝りな笑顔の遺影はあまりに若く、彼女の姿はほとんどが布で覆われ、それは蓋をされて、寂しい土の下にうずめられた。