僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)
「お兄ちゃん!おかえり!」
「ただいまアイモ!なんだいそれは?」
僕が兵舎に帰ると、門番のところできゃっきゃとはしゃいでいたアイモが、すぐに走り寄ってきた。アイモは手に白い実を持っていた。それは子供の両手のひらでやっと掴めるくらいの大きさで、硬くてつるつるしていた。
「さっきアイモが調理室でもらってきたんだ。この子、アンタにも分けてやるってきかなくて」
ヴィヴィアンがこちらに向かって歩きながら、少し悔しそうにそう言った。僕はアイモに向かって屈み込む。
「ありがとう、アイモ。じゃあ部屋に戻ろうか」
「うん!」
僕たちは部屋に戻り、刃物の扱いに慣れたジョンが果物の皮を剝いてくれて、めいめいに、みずみずしくてシャリシャリと歯ざわりの良い果実をたっぷり味わった。
「おいしいね!」
「アイモ、服についちゃうよ、お口拭いてね」
「あ!うん!」
アイモの隣には、今日は吹雪さんが座っている。僕たちは部屋を囲むように置かれた椅子に座っていた。
「それでよ、オズワルド様の方はどうだったんだ?話は聞いてもらえたのか?」
ロジャーが忙しなく最後の一口を放り込んでからそう言った。そこから僕たちは話し始める。
「はい。明日、春喜と僕が会えるかどうか、確かめてくれるそうです」
「ふーん。うまくいくといいけどな」
「でも、軍の人間はどんなに抗議に行きたいって言っても、議会にすら聞いてもらえなかったんだぜ。そうすんなり運ぶとも思えないけどな」
ジョンはナイフを隅にある水道で洗っていた。
「それにしても、もしアンタの言う通りだとして、アタシたちはどうすりゃいいんだろうね」
「今の時点ではわかりません。でも、僕が春喜との繋がりを絶たれていない限り、方法はあると思います」
それから数日待ってみたけど、オズワルドさんからの連絡は無く、僕はじれったい気持ちで待ちながら、二度、モンスターの急襲のため出動があった。その時はなんともなく、いつもの通りに僕たちは撃退することが出来た。
でも三度目の時、「それ」は来た。
「ちくしょう!なんだったんだいあいつは!吹雪!こっちも早く!ロジャーの息が止まってる!」
「わかってる!少し待って!ジョンの血がまだ止まらないの!」
「痛いよお、お兄ちゃん…」
「大丈夫、大丈夫だよアイモ…」
僕はアイモを励まそうとそう言ってから、力が尽きてその場に倒れ込んだ。
僕たちは兵舎に付属の病院で寝かされ、「治癒」のギフトを持った吹雪さんや他の兵士に見守られ、数日を過ごした。
それで回復して僕たちは病院を出ることが出来たけど、ジョンとロジャーは胸や腹、足に大きな傷跡を残し、アイモにはもっと大きな傷が残った。
僕たちがあの日戦場でかちあったモンスターは、今までとは段違いに強かった。
凄まじい巨体、鋭い牙、速い足。そして何より、そのモンスターは再生能力を持っていた。
僕はあまりに大きすぎるそのモンスターに焦点を合わせられず、僕が消したモンスターの腕や足は、すぐに生えてきた。
結果として、僕以外の攻撃はその再生能力に阻まれてしまい、通じなかった。
なんとかみんなをまとめて持ち上げて、安全な場所に放り投げてくれたアイモのおかげで、モンスターが両腕を振るった時、全員が致命傷を避けられた。アイモもとっさに自分の額に手を当てて自分を吹き飛ばし、難を逃れた。
そのあとで僕がアイモに空中に押し上げてもらい、空からモンスターの体中全部を消し去るまで狙っていなければ、絶対にみんな生きては帰れなかっただろう。
そして、そのためにアイモは、消えかけていたモンスターの鉤爪の先で腕を裂かれ、その場に倒れた。
アイモは、自分の大きな傷や、周りの全員が危機的状況に追い込まれたのを目の当たりにして、ショックで口が利けなくなってしまった。
毎日アイモはベッドに座り、膝を抱えている。横たわって体を休めることも出来ないほど追い込まれているのか、「少し休まないと」とヴィヴィアンや吹雪が慰めても、下を向いたまま、誰の目も見なかった。
作品名:僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結) 作家名:桐生甘太郎