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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

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Episode.16 闘いの傷








僕が一班のみんなの前で「この世界はおかしい」と言った時、みんなは戸惑っていたけど、どうやら僕たちはそれでひとまとまりとなることが出来たと思う。

あれからヴィヴィアンもそこまで僕に冷たくなくなったし、ジョンも同じで、ロジャーは変わらず僕を気遣ってくれた。吹雪もアイモも、僕を頼りにしてくれた。



僕はその後すぐに、オズワルドさんに会いに行くために外出届を提出したけど、議会に行ってもオズワルドさんは会議に追われていてなかなか会えなかった。

どうやら今、議会は真っ二つに割れてしまっているらしい。オズワルドさんを議長から引きずり下ろしたい人たちと、オズワルドさんを支持する党派の人たちでの争いが絶えずに、混乱が起きているらしかった。

僕は街に出た時に新聞を買ったけど、モンスターの急襲がいつだったのかと、それから議会での混乱を揶揄する記事、それから経済面ではこの世界に移ってからの人々の目覚ましい活躍などが書かれていた。



街は、明るい。

人々は互いに助け合って、「ハルキ様」を頼りに暮らしている。

僕の弟の言葉が速報に載ると、広場に居る人たちは新聞売りの少年からこぞってその紙をもぎ取っていく。

少年はそれで新しい服や靴を買い、家族にも暖かい服などを買ってやる。

人々は速報を読んで、春喜が「東の林に水源がある」と言えば穴を掘って井戸を見出し、「北の果ての木になる実からはこれこれの薬が作れる」と言えばそれを探し当てて、病人を癒やした。

僕は、それらを眼下に眠り続け、時たまタカシの口を通じて導きを与えるだけになった、弟を想う。

弟は人間として生きることは出来なくなった。そして、おそらくオズワルドさんが言った通り、神の力を宿し続けるためには人の力では足りないため、春喜は眠り続ける。

それは果たして幸せなのだろうか?そして、神を得てもなお闘い続けなければいけない人々の現状は、前より良くなったと言えるのだろうか?



僕は早くオズワルドさんに会って、このことを相談したかった。そして、それは五回目に外出届を提出して、議事堂に行った時に出来た。




前々日にも議事堂に行って面接を申請しておいた僕は、もしくは「お兄様」であるからか、オズワルドさんに会うことが出来た。その時、オズワルドさんはくたびれた様子だった。通されたのは、彼の執務室だった。

「おお、お久しぶりでございますお兄様。お元気でしたか。ご無事で何よりです。なかなかお会い出来ず、申し訳ございませんでした」

軍に僕を送り込んだことを心配してくれていたのか、オズワルドさんはそう言ってあたたかく僕を迎えてくれた。

僕は、心配の無いこと、上手くいっていることなどを二言三言話し、仕事を中断してソファに来てくれたオズワルドさんに頭を下げた。

「議会の方は、あまり良くないのですか」

「ええ、何しろ本当に必要なところまで手が回らない有様でして…わたくしは日々、疑念を晴らすために申し開きをするのですが、聞く耳持たんと、皆はねつけられてしまって…会議が進みません」

「「ハルキ様」に不信を抱く者は居ないのでそこは心配は無いのですが、わたくしが出来もしないのに、ハルキ様のご命令と称して悪政を働くつもりであろうとの見方をする者が、いかんせん多すぎるのです…」

僕はそのオズワルドさんの重い責任と行き詰まった立場を思うと、自分の話がしにくかった。でも、迷っていては本当のことを確かめることも出来ない。

いつもの通りに出されたお茶を飲み、僕はオズワルドさんの方に身を乗り出す。

「その、春喜のことで、僕は、議会の方とは違う疑念を抱いています」

そう言った時、僕は緊張していた。もしオズワルドさんがこれに興味を示さずに僕の意見を拒否してしまえば、春喜に会えなくなるからだ。そうすれば何もわからない。

オズワルドさんはどういうことかと不思議に思ったのか、彼も僕にちょっと近づいた。

「疑念、とは…一体なんのことでしょうか?」

どう言えばこの危機感が伝わるのだろうか?僕は迷っていた。

「僕は…この「春喜が守っている」という世界について、「本当にそれはなされているのだろうか?」と疑問に思うんです。僕たちは軍に所属し、日々、侵入者と闘っています。でも、戦場で兵士の危機を春喜が救った、もしくは…そのために、一人の兵士を犠牲にした…そういう話も、もう聴きました…」

「だから思うんです。神が僕たちを守りたいならすぐに出来るのに、僕たちは闘わされているのだと…。オズワルドさんは、そのことについてどうお考えになりますか?」

オズワルドさんは一瞬だけ戸惑いを表情に見せたけど、すぐに僕を見つめ直し、かすかに頷いた。

「わたくしも実は、そのことについて長い間、考えております」

そう言ってオズワルドさんは手早くお茶を一口二口飲む。

「不思議なことですが、我々の住んでいるこの一帯には、毒のある植物や動物はおりません。だから初め我々は、ここは神がお与えくださったエデンなのではないかと思ったのです」

「しかし、外から侵入してくる、我々を脅かす者たちが現れました。それでわたくしは、果たして初めに感じたことを信じていいのかどうか、疑問に思いました…」

オズワルドさんは一瞬だけうなだれてみせたが、すぐに顔を上げて、僕を見つめた。

「しかしハルキ様のお言葉は間違いなく我々を豊かにし、救って下さっています。ですから、もし我々が与えられたものがエデンではなく、試練だとしたら、…それはまず、ハルキ様の口から告げられるのだろうと思い、わたくしは過ごしています…」

僕は「やっぱりこの人はもう知っていた」と思って、少し勇気が湧いた。そして、僕ならそれを確かめられるんじゃないかと思って、オズワルドさんにこう言った。

「では、僕を春喜に会わせていただけませんか?僕は春喜の兄です、僕になら話してくれるかもしれません」

「…わかりました。しかし、軍の兵士との面会を全面的にお断りになった以上、ハルキ様がお会いになるかはわかりません。ですが、明日のわたくしの拝謁の際に、ハルキ様に呼びかけてみることに致しましょう」

「よろしくお願いします」