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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

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Episode.25 新たなる試練






春喜は大きな木の下で眠り、自分を氷の中に閉じ込めていた。僕たちには自然とそのわけが分かっていた。


力を封じ込めるためだ。操られないように。


だから僕たちは春喜の周りに集まって、春喜を起こしていいものかどうか話し合った。

「もしハルキ様が起きたとして、それでまた神に操られはじめたとしたら、話にならねえぜ」

ロジャーは、彼が苛立つ時の癖で、頭をガシガシと掻いていた。

「それは確かだ。彼が自分を氷づけにしたのはその理由からだろう。だとするなら、我々が彼を起こせば、よからぬことが起こる」

兵長が言ったことは正しいと、全員が思っただろう。

「そんな…それじゃあどうしたら…」

ロザリーナが悲しそうに春喜を見た。タカシはさっきから、春喜を起こそうとして、氷を手でつっついたり押したりしている。

しばらくその光景を見て頭を悩ませていた僕たちに、タカシはくるりと振り向いた。

その時僕たちはすぐに気が付いた。タカシが、犬の顔をしていないことに。


「まさか…!」


「来たな、人間よ」


それはまた、神の声だった。僕は「しまった」と思った。

タカシもまた、神の傀儡であったのだ。タカシをここに連れて来るということは、ここに神を連れて来るのと同じことになる。

それじゃあ春喜がここに隠れて、力を封じた意味がなくなるかもしれないじゃないか。なんてことを。

僕がそう思っていると、タカシがにやりと笑って、神は僕にこう言う。


「私はこの少年に力を分け与えた。だからこの少年は、私に背くことが出来たのだ」

神の力を得た者だけが、神に背くことができる。そんなことは僕たちは教わってこなかったのに、自然と全員がそれを飲み込めた。

神は先を続ける。

「少年がここで眠り続ける限り、お前たちが滅びることはない。私の力はお前たちには及ばない」

「少年は、私と、お前たち人間の間を力が行き交う道に、じっと立っている。お前たちはこのまま、ここを去るが良い」


春喜は神が人々を滅ぼさないように、神と僕たちの間の道を封じた。それも、僕たちにはあっさりと理解が出来た。


でも…じゃあ僕たちはここまで、何のために来たと言うのだろう?


春喜だけ見捨てろと言うのか…?


僕は絶望しかけた。他の全員も同じだった。



誰も、何も言うことが出来なかった。ロザリーナは膝から崩れ落ち、泣き始めた。

兵長もロジャーも、ジョンもイワンも、呆然と立って、眠っている春喜の顔を見ていた。


僕はその時、あることを考えていた。そして、理子さんの顔を思い出す。彼女は今も僕を待っているだろう。


「…神様。もう一度、僕の夢で見た場所へ、僕を連れて行ってくれませんか」


僕がそう言うと、他のみんなは僕を見て、不安そうな顔をする。僕はその時、理子さんに向かって、胸の中で「ごめんなさい」とつぶやいた。

「いいだろう」

タカシの口からその神の言葉を聴くと、僕はみんなに向かって右手をかざす。その意味を知ったロジャーが、「待て!」と叫んだ。

「ごめん」、僕はそう言って力を使い、自分の体が遥か空へ吸い込まれるような感覚を味わった。