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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

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そこは、真っ白い玉座の前だった。僕は白い地面に膝を抱えて座り込んでいて、神は玉座に座り、こちらを見ていた。

その目は冷たく、また温かく、厳しくて、柔和だった。

「仲間を元の世界に送ったか」

「…はい」

神は一度頷く。



僕は、みんなと居ては話せないことを神に願うつもりだった。だから、神と二人きりになりたかったのだ。

でも、あそこにみんなを残していくのは危険だった。だから元の世界へと戻した。


これで僕は戻れなくなった。ここは神の前だ。おそらく僕はなんの力も無いのと同じだろう。


僕は神の前で立ちあがる。


「お前の望みはなんだ」


「誰も滅ぼさないことと、弟も他の人も、元に戻してやることです」


神は眉をひそめて立ち上がる。そして怒りの目で僕を見た。でも僕は、今度はそんなに怖くなかった。


「お怒りはごもっともですが、どうぞお気を鎮めて下さい。僕から提案があります」


「言ってみなさい」


僕は喉に溜まる唾液を飲み込み、震え始める両手を抑えた。


「僕一人を地獄におさめることで、溜飲を下げては頂けないでしょうか」


僕がそう言うと、神は僕を見つめて目を細め、一層顔をしかめた。


「お前が代わりに罪を被るということか」


「そうです」


しばらくの沈黙の間、僕は自分を必死に立たせていた。そして神から目を離さず、見つめ続けていた。神はやがてこう言った。


「…よろしい。それほどまで言うなら、私ももう少し歩み寄ってもよい。だが、一つ約束しろ。これを拒否すれば、お前の弟の命は無いと思え」


僕は驚き、恐れ、自分の願いが聞き入れられたことが、信じられないほどに嬉しかった。


「はい。なんでしょうか」


「お前の弟の残りの寿命の分、お前の命を削る」


僕は戸惑いはしなかった。


「わかりました。ありがとうございます。弟が助かるなら、それで充分です」


神はその時初めて僕に微笑み、頷いた。


「お前はよい兄だ。では、お前たちを滅ぼす話は白紙に戻そう」


僕は嬉しかった。本当に嬉しかった。

これですべてが元に戻る。命を脅かされる生活なんか、終わるんだ。


「だが、お前と約束をした印として、私はお前の弟の体から、あるものを抜き去る。目が覚めたら、すぐに弟に会いに行くがよい」


「あるものとはなんですか?」


その時風が吹いて僕の足元が崩れ、僕は奈落の底に、一気に墜落していった。

「わあーっ!」







「わっ!」

僕は叫びながら目を覚ました。そこは暖かくて、柔らかいベッドの上だった。

周りを見回すと、見慣れた小さなテレビと、それから本棚、あとはちゃぶ台のようなテーブルがあって、テーブルの上にはジュースのペットボトルがあった。


覚えがある景色、懐かしい景色だった。


ここは元の世界で、僕が住んでいた家だ!



「春喜!」

僕が急いで部屋を飛び出すと、僕の部屋の前を通ろうとしていた母さんが現れた。

「母さん!」

僕はもう会えないと思っていたものだから、母さんが居ることに大喜びして、急いで抱き着いた。

「きゃあっ!何よ!どうしたの!?」

「なんでもない…なんでもないんだ…!」

あの世界の墓地で、母さんのお墓に抱きついていたことを思い出した。それは冷たく硬い石だけだったけど、生きて息をしている母さんの温かさが、僕は芯から有難かった。

「本当にどうしたのよ、びっくりしたじゃない!」

僕は母さんを抱きしめる腕を解き、「そうだ、春喜は?」と聞く。

「まだ寝てるわよ、六時半じゃないの」

訳が分からないまま母さんが下唇を突き出した様子も、それが母さんであることだけで、僕は嬉しかった。

「そっか!」

僕はそれから、春喜の居る部屋目指して走って行った。そして春喜の部屋のドアを開けると、春喜は自分のベッドに居て、布団に包まっていた。

それを見つけて、僕は泣きそうなほど嬉しくて、駆け寄って春喜へと身を屈める。

「春喜…」

ゆっくりと、春喜が振り向く。僕はそれを見ると、途端に喜びがしぼんでいった。


春喜の顔はとても苦しそうで、脂汗を掻いていて、春喜は「お兄ちゃん、くるしい…」とだけ言って、そのまま意識を失ったように目を閉じてしまった。


「春喜!」