僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)
白い宮殿は、曇ったレンズで写したように、朝日を浴びてほんわりとした光を放っている。宮殿の門は開いたままだった。
僕たちはそこまで着いて、慌てて中に駆け込む。
「これは…やはり…」
春喜のベッドには、誰も居なかった。でも、ベッドの足元にはタカシが残されたままで、タカシはすやすや眠っていた。
僕がタカシに近づいていくと、不意にタカシはぱちっと目を開け、首を持ち上げる。
僕はタカシの目を見た。その目には表情があり、そしてそれは厳しく、優しく、意志の重みがあった。僕の背中がぞわっと粟立つ。
タカシは大儀そうに口を開いた。
「少年を探すのか」
僕はまた足が竦み、恐怖がぶり返す。それはしゃがれて乾いた、老人の声だった。
でも僕は、ここ一番の勇気を振り絞ってこう言った。
「…はい…そして、止めます」
「人の子よ。道に逆らうな」
神がそう言い終わると、タカシの目はゆっくりゆっくり閉じて、またぱたりと自分の腕にもたれ、眠り始めた。
全員がそれを見ていて、僕が振り向くと四人とも青ざめていた。アイモはすっかり怯えてジョンにしがみつき、抱えられていた。
宮殿から帰り、僕たちは「議会に寄ってから兵舎へ戻る」と言った兵長を、兵長室で待っていた。
一階からは、兵士たちの不安そうなつぶやきがいくつもいくつも重なり、ざわめく空気は広がり続けていた。それは僕たちの胸を急かし、僕たちはあまり喋らなかった。
そして朝食のベルが鳴って外に出た途端、僕たちはたくさんの兵士から質問攻めにあった。
「お兄様!神様の話って本当なのかよ!」
「夢だったんだろ!?本当なわけないよな!?」
「俺たちが何したって言うんだよ!」
「昨日だって仲間があんなに死んだんだ!これ以上、どうしろって言うんだ!」
たくさんの言葉が僕にぶつけられ、僕はしばらく戸惑っていたけど、だんだんと声は止み、彼らは僕の答えを待っていた。
集まった兵士たち全員が、不安でいっぱいの目をこちらに向ける。僕はゆっくり口を開いた。
「残念ながら、本当のようです…さっき宮殿に行き、タカシの口を通じて、僕は神の言葉を聴きました」
そこで少々のどよめきがあり、静まり返るのを待って、僕は言った。
「神は僕に、「道に逆らうな」と言いました…」
それで兵士たちはがっくりと力を落として、半数の者が項垂れる。その時、ロジャーが右手を振り上げ、こう叫んだ。
「だからこそ!俺たちはハルキ様を探し出して止めるんだ!ハルキ様は自分で自分を封じるために、おそらく異次元へと飛んだ!それなら探し出して、ハルキ様の中から神様を追っ払うしかねえ!」
兵士たちは初め、その言葉を聴いて戸惑い、怖がっていた。ロジャーはこう続ける。
「お前ら忘れたのか!ハルキ様は戦場で俺たちの窮地を救ってくれた!それは人間であるハルキ様の意志だった!神様の命令じゃない!」
それを聴いて、兵士たちは大いに驚いたようで、叫ぶ者も居た。
「闘うんだ!探し出すんだ!今度は俺たちが、ハルキ様の力になる番じゃねえのか!」
すると、少しずつ兵士たちが元気を取り戻し、隣り合った者と顔を見合わせて、ぼそぼそと相談をする者も居た。
「やるのか!やらねえのか!そんなんで死んでいった仲間に顔向けができるのか!?ここで俺たちがやらなきゃ、俺たちだけじゃねえ、街の人さえ守れねえんだ!俺たちは“護る者”じゃねえのか!」
その時わあっと歓声が起き、みんなの心に兵長の言葉が思い出されたのだろう、幾人かが、「やるぞ!」、「救うんだ!」と声を上げた。
興奮が頂点へと達して団結した兵士たちの背後から、兵長が現れ、「議会の承認が得られたぞ!全員こちらを向いて聞け!」と叫ぶ。
「我々はこれからハルキ様を探す!住民へは、議会から地下シェルターへの避難命令が出されることになった!」
「二班、三班はここに残り、続いて住民の安全確保にあたれ!私と一班はハルキ様を捜索する!私の居ない間の指揮は二班の長に命じる!くれぐれも気を緩めるな!住民を守るんだ!」
そして僕たちは、異次元への旅に出ることになった。
作品名:僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結) 作家名:桐生甘太郎