僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)
目を開けると、そこは真っ白い空間だった。僕はその空間に立っている。
それはすぐに夢と分かり、その時僕は少し嬉しかった。そして同時に、怯えていた。
夢ならば、彼らに会えるのではないか。会って謝れるのではないかと思った。
でも、周りを見回しても、少し前に白い石造りの椅子が向こう向きに置いてあるだけで、他に何も無い場所だった。
真っ白い光の中なのに、光だけがある空間に僕は行き場の無さを感じて、誰かの名前を呼ぼうとした。
その時、石造りの椅子から誰かが立ち上がった。
一見するとそれはオズワルドさんのような恰好をした老人で、僕は一瞬彼と見まごうほどだった。でも、その人はオズワルドさんではなかった。
白い髪に白い髭、垂れ下がった瞼の下から鋭い瞳が覗いているのは変わらないのに、その表情は言いようのない厳しさを感じた。
その人は立ち上がってから、僕に手招きをする。僕は少し怖かったけど、その人からは、従うしかないような威厳を感じた。
その人の傍に行くと、僕は自然と前屈みになって、おそるおそるその顔色を窺った。まるでその瞳が瞬くだけで、僕の存在は消し飛びそうだった。
「人の子よ、お前は私をなんと称する」
僕は驚いた。それは、僕が「ギフト」を授かる時に春喜の口から出たのと同じ、神の声だった。思わず僕は小さく声を上げる。
でもすぐに落ち着きを取り戻そうと頑張り、なんとか質問に答えた。
「…か、神様です…」
その人は一度頷いた。それから、こう続ける。
「では、私がお前達に何を望むか分かるか」
僕はすぐには答えられなかった。
神が人間に何を望むか、だって?そんなの僕に分かるわけがない。
でもここで答えなくては、もしかしたら僕たち全員の運命が絶たれるようで、恐ろしくて堪らなかった。
「…申し訳ありません。僕には分かりません」
そう言った時、僕の背中にさっと寒気が通って、僕は下げた頭を上げられなかった。
「顔を上げなさい」
僕はそう言われて、またおそるおそる、神の顔を見る。その目は、今度こそ僕を厳しく責めて、怒っているように見えた。
僕はそれに戦慄したのに、叫ぶことも、逃げ出すことも出来なかったし、指一本動かせなかった。僕の意志は、神の目がちょっと細められただけで死んでしまった。
それから神はこう言った。
「私は明日、お前たちを滅ぼそう」
神ははっきりとそう言った。
神が嘘を吐くわけが無い。冗談を言うはずも無い。そして…神に出来ないことは無い。
僕は一瞬の内に、絶望の淵から叩き落とされた。
「お前たちは前に居た世を思うがままに汚し、そして不毛な争いばかりに血道を上げていた。私は自分が創り出したものとして今までお前たちを赦し、愛してきた。しかしお前たちは変わらなかった」
僕はそれを聴きながら、尚も最後の一本の糸に縋るようにこう言った。わけもなく頬に涙が流れる。
「なぜですか…あなたは戦場の僕たちを助けて下さっていたではないですか…?」
そうだ。神は春喜を通じて、危ういところを救ってくれたはずだ。
「あれは私の意志ではない。私の力をあの少年が使おうとしたまでだ。だから私はそれ以後、少年の力を封じた。しかし明日、私はそれを解放してお前たちを消し去ろう」
「そんな…春喜が…」
知らなかった。あれは春喜が望んだだけのことだったのか。僕たちは初めからほとんど神に見捨てられていたのか。
僕はこの世の終わりに打ちひしがれ、膝の力が抜けてその場にがっくりと倒れた。
「なぜ…なぜ僕の弟なんだよ…」
僕は絶望のまま、それでも弟のためを思う気持ちが忘れられず、我知らず口からは悔しさがこぼれた。すると、なんとそれには答えが与えられたのだ。
「お前の弟を選んだのではない、お前しかいなかったのだ」
はっとして顔を上げると、神はまだ威厳を崩すことなく、確かに僕を見つめていた。
「僕を…選んだ…?何にでしょうか…?」
そこで神は自分の右手に目を落とす。そこにはバラの花がぱっと現れ、そしてすぐに跡形もなく消えた。
「不完全ながらも、この力を使いながら、なお、多くの眠りを必要としない魂を探した。なるべく近い、神としての導き手も」
まさか。そんな。じゃあ僕は…
僕はすでに「結局僕のせいだったんだ」と思いながら、涙を流す理子さんの顔を思い浮かべていた。
「そして、お前を見つけた」
僕は床に手を突っ張って泣き、神はそれを無視した。
「お前がもし逃れたいと望むなら、明日、川辺にある杉の木を探してその下に立つがよい」
それを聴いて僕は顔を上げたけど、その時にはもう神の姿は無く、白い椅子も消えていた。
「待って…待って!待ってください!神様!」
作品名:僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結) 作家名:桐生甘太郎