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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

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Episode.22 残酷な夢








戦場から帰り、僕らはその日のうちにすぐ、兵士たちの遺体を家族に渡した。

僕が背中に背負っていたのは、アルベリッヒだった。彼は闘いの終わる前日、僕たちからはぐれた隙に侵入者たちモンスターに殺された。



アルベリッヒの家は横並びの一棟を区切った木造のフラットで、門も無かった。

玄関口のベルを鳴らすと、部屋の奥から玄関まで走って来る音がした。ドアを開けたのは彼のお母さんらしい、六十代後半くらいの人だった。


お母さんは僕の背中に背負われていた自分の息子を見て、一瞬ほっとしたような顔をしたけど、すぐにその表情は凍りついた。お母さんの後ろからは十七、八歳くらいの娘さんも出てきて、その場で泣き崩れるお母さんを支えていた。



彼、アルベリッヒの父親は病気で、彼の家ではアルベリッヒの軍での給料だけが頼みの綱だった。それでも日々の暮らしに困っていたのか、一間しか無い家の中にほとんど物は無く、寒くて小さな家で、家族の人たちの服は擦り切れていた。


彼の家族は、僕がアルベリッヒを彼のベッドに寝かせると、お母さんと娘さんは取り縋って泣き、床に就いたままの彼の父親も、アルベリッヒへと届かない手を必死に伸ばして泣いていた。


僕はその痛切な泣き声も胸に刻み、また歩き出した。




僕たちはその後、一班からアイモを除いた、僕とロジャーとジョン、それから兵長の四人で、兵長室に集まっていた。


僕たち三人の耳には、まだ遺族の泣き声がこだましている。ロジャーさえも暗く沈んだ面持ちで、自分の膝に肘をもたせかけてソファに掛けていた。

しばらくは、誰も何も喋らなかった。兵長は掛ける言葉も無かったのか、僕たちを部屋に迎え入れた時も、何も言わなかった。

ティーポットには湯が注がれてもう十分は経ったのに、誰も手をつけない。そのうちに兵長はこう言った。


「ハルキ様が現れるのは、我々が危機的状況に陥った時だ。それは間違いない」


その言葉に、僕たちは一斉に兵長の方を見た。僕たちは一瞬、なぜ兵長が春喜の話を始めたのか考えられないくらいに落ち込んでいた。

でも、少ししてジョンが思い出したようにつぶやく。

「…確かに。シャーロットの時もそうでした」

それからロジャーが身を乗り出した。

「この間の闘いもそうだった」

兵長はそれらを聴いて頷きながら、ティーポットに手を伸ばし、全員分の濃く出たお茶をカップに注ぐ。みんな気が進まないながらも、お茶に口をつけた。

兵長は僕たち三人の目を代わる代わる見て、さらに続ける。

「どうやら、“防ぎ切れない”とハルキ様が目した時だろうというのは感じていた。しかしそうだとするなら、なぜ今回は現れなかったのか」

「それから、確かに危機を救えば民衆の心を寄せ集められるが、それが目的なら、初めから全部彼がやってしまえば、信仰はもっと堅いものとなるはずだ。なぜハルキ様はそうしないのか。私はずっと疑問だった」

兵長はそう言って僕たちに意見を促すように、一人一人目を見つめた。

「そうですね、それはあんちゃんも言ってたよな?」

ロジャーはそう言って僕を振り返る。

「はい。ずっと思っていたんです」

兵長は頷く。

「ヴィヴィアンからそれを相談されたことがある。彼女は、「我々に課せられた運命は手に余るもので、それは我々の手で塗り替えることが出来る」と信じていた。そして、それを私に強く促した」

「私はその時は彼女に答えを与えてやれなかったが、彼女は最後まで闘い続け、我々にその力を遺していった。だからこそ今、我々はその答えに辿り着くために、探し始めなければいけない」

僕たち三人はそれを黙って聴き、兵長がひと口お茶を飲むのに倣った。

「今は宮殿の扉すら封じられ、ハルキ様は戦場にも現れなくなった。それが何を意味するのか分からないが、このままではこの世界はすぐにも混沌として、街の治安の維持すら難しくなるだろう。それに、次にいつ奴らが襲い来るとも限らない」


その時、僕たちは全員こう思ったはずだ。



“日を追うごとに奴らは強く、多くなっている。次は防ぎ切れないかもしれない”、と…。


兵長はその全員の緊張を表情から感じ取って、僕らが自分の言ったことをはっきり受け止めたと分かったのか、最後にこう言った。


「明日…この全員で宮殿まで行ってみよう」