僕の弟、ハルキを探して<第二部>(改訂版)
「吹雪!吹雪は居ないか!」
闘いの中、消えかけたモンスターの尾が僕の腹を削り、僕はその場に倒れた。出血は激しかったようで、僕は一瞬意識を失った。ロジャーが残りの敵を急いで殲滅し、遠くにまた大群が見えるだけになってから、僕はロジャーに背負われて回復のためにテントへやってきたのだ。
でも、僕たちを迎えたのは、吹雪じゃなかった。
「オズワルド様!?あんた、駆り出されたのかい!?」
僕を背負ったまま、ロジャーが素っ頓狂な声で叫ぶ。オズワルドさんは「急いで治療を」と言って、僕を二人でむしろの上に寝かせてくれた。
「ああっ…!」
腹に走る激痛に、僕は声を上げ、体をねじる。痛い。痛い。痛い。
気づくと、テントの中は満員になっていて、治癒者はオズワルドさんと、顔も知らない若い女性一人だった。周りを見ると、その場は傷ついた兵士たちで埋め尽くされ、女性はおろおろと泣きそうな顔で、一人の兵士の上に蹲って必死に胸のあたりに手を当てていた。
「ロザリーナ、もうよしなさい」
ロザリーナと呼ばれた女性は首を振った。彼女が癒そうとしていた兵士は、すでにこと切れていたんだろう。オズワルドさんはしくしくと泣き出した彼女に、さらにこう言う。
「今苦しんでいる者を、救うのです」
女性はまた首を振ろうとしたけど、名残惜しそうに死んだ兵士の傍を離れて、すぐ隣に寝そべって苦しそうな声を上げている兵士に向かって治療を始めた。彼女の涙は止まらなかった。
「…彼女は、二週間前にギフトを授かったのです。私が教えながらですが、手が足りない今、それは仕方ありません。さあ、治療を…」
その時、ロジャーが言った。
「吹雪は…どこに居るんですかい。オズワルド様」
僕の朦朧とした意識に、吹雪さんの控えめな笑顔が浮かぶ。僕を癒してくれた時の、切羽詰まった表情が浮かぶ。そしてそれは、消えていった。
オズワルドさんは、黙ったまま僕の治療に掛かった。すると、ロジャーがテントの入口まで出て行き、外に向かって「ちくしょう!」と大声で叫ぶ。僕はそれを聴きながら、涙を流した。
「オズワルドさん、出来るだけ早くお願いします」
「承知しております。あまり喋らないで下さい」
しばらく僕は、おなかを温められるような感覚に包まれ、眠ってしまわないようにだけ気をつけていた。
「俺、もう行くぜ。俺が出来る分はやってくる。ここも安全にしておかなきゃいけないしな」
ロジャーがそう言ってテントを出ようとした時、オズワルドさんは立ち上がって彼を引き留めた。
「なりません。貴方お一人の力で収まる闘いではない、お兄様をお待ちなさい」
「そうも言ってられないでしょうが!こうしてる間にも仲間が死んでるんだ!」
「落ち着いて下さい!とにかく、あと少しですから、その間だけここに居て下さい!」
二人がそう押し問答しているのを僕は聴きながら、大きな血管からの出血は止まって、あとは裂けた肉を繋ぎ合わせればいいだけになったのを感じていたので、右腕でなんとか起き上がってロジャーに声を掛けようとした。テントの入口に顔を向けた時、オズワルドさんの姿は無く、ロジャーも入口から外へとすっ飛んでいった。何が起こったのか分からない中、外からロジャーの叫び声が聴こえてくる。
「あんちゃん!動けるなら後から来てくれ!」
僕はそれを聴き、「近くまでモンスターが来ている」と分かったので、痛みなど即座に無視して立ち上がる。それでも、テントの入口までのたった五歩が辛かった。
「あああっ…!!」
痛みをうめきに逃がして入口に立つと、今まさに、目の前に居る大きなドラゴンのようなモンスターが火炎を吐こうと胸を大きく膨らませたところだった。
間に合え!
僕はそう心で叫び右腕を掲げる。迫る炎を僕は片っ端から消し、それでも勢い強く炎を吐き続けるドラゴンによって、僕の右腕より数メートル先がすべて焼き尽くされた。
僕が右腕を下げた時、ロジャーは僕の足元に居た。僕たちは近くにオズワルドさんが居ないか探す。
「オズワルド様!それからあんちゃん!アイモがこっちに走ってきたんだ!必ず居る!」
「オズワルドさん!アイモ!」
僕たちは焼け焦げた地面に向かって叫ぶ。返事は無い。ロジャーは一度だけ地面を足で踏み潰した。
すると、僕は目の前の黒い土が盛り上がっていることに気づいた。それが何かもぞもぞと動いている。
「オズワルドさん!?」
僕がその場に蹲って土のように焼け焦げたオズワルドさんの体をひっくり返すと、彼の半分焼け爛れた顔が現れた。
「オズワルドさん…」
彼はすでに、息が無かった。ロジャーはその光景に言葉を失くし、僕たちは一瞬「それ」に気づくのが遅れた。でも、オズワルドさんは腕の中にアイモを抱えて、ずっと炎の中で守り続けていたのだ。
「う‥うう…」
「アイモ!」
「無事だったのか!」
僕は少し火傷をしていたアイモを抱え上げてテントへ連れて行き、ロジャーはオズワルドさんの物言わぬ体を背負った。
僕がロザリーナさんに傷を癒してもらってから、僕たちは兵長と合流した。彼が持っていたのは、亡くなったシャーロットと同じ「対象者の時を止める能力」だった。彼のその能力も合わせて、ジョン、ロジャー、アイモの残る僕らでなんとか闘った。僕は最前で敵を消し、討ち漏らしたモンスターは兵長が止めるまでロジャーが引きつけて炎熱を食らわせ、アイモはモンスターを持ち上げて地面に叩きつけ、ジョンは片っ端から切り刻んだ。
終わりは、その二日後に訪れた。その時、地平線から朝日が昇るのを僕たちは見た。
「気に食わねえ。昨日と同じ顔してやがるぜ」
ロジャーは昇る朝日を見ながら一言、そう言った。兵士たちは半数が死に、僕たちは皆それぞれにその亡骸を背負って街へ帰った。兵長はオズワルドさんの焼け焦げた体を背負い、僕たちにこう言った。
「戻ったら、兵長室に集まれ。お前たちと話し合いたいことがある」
「えっ…こんな時にですかい兵長?」
ロジャーがそう聞いても、兵長は振り向かず、「そうだ。おそらく、今しかないだろう」と言った。
僕たちは何か言い知れない不安を抱えて、疲れた足を引きずっていた。
作品名:僕の弟、ハルキを探して<第二部>(改訂版) 作家名:桐生甘太郎



