小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

INDEX|11ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

Episode.19 戦場








僕はそれから、いつも先頭に立ってまた別の世界へとモンスターを葬り去り、闘いが終われば兵士たちを労って、全員の生還を喜んだ。


僕の右手から生まれる力は莫大なものとなり、僕は直感でそれを自在に伸び縮みさせることが出来るようになっていた。


新聞の号外では僕のことが鮮やかに賞賛され、街に出れば人々は僕に感謝をして歓迎してくれた。


家に帰れば、僕がおそらく好意を抱いているのだろう彼女が迎えて、優しく僕を癒してくれる。

でも僕は、そのことについて「想いを遂げたい」と思ったり、胸をときめく気持ちを口に出すことが出来なかった。おそらく彼女も同じなのだろうとさえ、僕には分かっていたのに。



僕はもちろん生き残っていくつもりだけど、一番危険な場所に居ることは間違いない。そして、彼女は戦場を知らない。そのことは、僕と彼女の間に、大きな壁を作っている気がしていた。

この恋を分かち合ったとして、後に彼女の嘆きが残ることになった時、僕にはそれをどうすることも出来ないのだ。僕から命が取り上げられれば、必ずそうなる。


僕はそのことに恐怖し、「彼女との距離をこのままにしておこう」と思うようになった。





「お兄様、朝ですよ」

ある朝僕は、いつものように枕元で小さく鳴るベルの音で目が覚めた。

彼女が片手にベルを持ち、それを揺らしながら僕を見つめている。僕は、初めのうちは気まずくて恥ずかしかったけど、彼女に起こしてもらうのは今は、幸せだ。

「ああ、おはよう…」

眠い目をこすって体を起こし、ベッドの脇に立っている彼女が、もうきちんと仕事着のエプロンドレスに身を包んで、結び髪を朝の光に晒しているのを見る。

「今朝は何にいたしましょうか?」

「何があるの?」

「お肉が少しと、豆と木の実、あとはお野菜があります」

「じゃあお肉を焼いて、それから残りはスープにしよう」

「はい、ではそのように。スープは具沢山、ですね?着替えが済んだら降りてきて下さい」

「お願いね」

僕たちは当たり前のように、二人とも知っている言葉を省いた会話をする。

だんだんとお互いの生活に慣れて、今では旧知の仲だったように過ごしていた。


彼女の名前は「天地理子」。

僕と同じく元は日本人で、元の世界では普通のOLだったらしい。

でもこの世界ではその需要は無く、仕方なく始めた住み込みのメイドさんから始まって、議事堂の管理の仕事にまで上り詰め、僕の家のメイドとして送り込まれてきた。


僕たちは初めてこの地に降り立った時の驚きや戸惑いを互いに話して、「一体どういうことになっているのかわからなかったよね」と、懐かしく笑い合ったりもした。

彼女はその時、「ハルキ様のことが、心配でしょうに…」と僕の顔を覗き込んだので、僕は、「そうだね」とだけ言った。





彼女は毎日忙しく仕事をしていても、手の空いた時間には僕の話に付き合ってくれたり、買い物に同行してくれたりする。


この日は朝も昼も敵襲は無く、彼女が軍との連絡手段を持ち、僕たちは街の市場へ向かった。


軍との連絡は、ある石で行われる。


それは一つの石を「母体」とし、母体の石を強く叩くと、その「子」たちである別の石が一斉に光り出すというものだ。


春喜はある晩、その石のことを夢で職人に告げ、その職人が夢で言われた通りに大岩を叩くと、辺り一面が光に包まれたらしい。


大岩は人々の連絡手段として用いるためにいくつも「母体」として削られ、真っ先に導入された軍では、兵長室に槌と一緒に置かれている。


僕は兵長室にある石から削り取った「子」の石を渡され、外出の時にはそれをいつも理子さんに持ってもらっていた。


「これでよし。では行きましょう」

「今日は、緊急招集がないといいんだけど」

「そうですね」