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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

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市場では、行き交う人々がお互いに体をすり抜けさせようと忙しなく動き回り、店主たちは明るい呼び声でお客を呼んでいた。

「ここに来れば生活に必要なものがすべて揃う」と言われている大きな市場で、中には二、三店ほどだけど、軍人相手に武器や防具を売る店もあった。

それらの店はあとで見て回ることにして、僕は理子さんの様子も見ながら、賑わう市場を歩いていく。


「やあ!英雄さん!頑張ってくれよ!」

「いつもありがとうな!」

「いい肉がある!精をつけてくれよ、安くするぜ!」


方々から僕に向かって声が掛かり、僕はそれに笑顔で受け答えをした。すると、さっき叫んでいた肉屋の店主のところへ、理子さんはちょっと寄りたがっているようだった。

「お肉屋さん、寄るかい?」

「あ、あの…お兄様は、お肉が好きですから…」

彼女がそう言ってそのお店に行き、「バロンの肉はありますか?」と店主に聞いた。

「バロン」とは、とても大きな牛のような動物で、僕が「モップ玉みたいだ」と思った、あの荷車を引いていた動物だった。

筋肉質に引き締まった大きな体の肉は、味わい深く食べ応えがあり、人々からとても好まれている。でも飼育に手間と時間が掛かるので、市場では高値で取引されていた。

「ございますとも。いくら必要ですか?」

そう言った店主から理子さんはその肉を少し買って、僕たちはまた市場を歩き、豆と野菜も買った。



市場の中ほどは雑貨店が並んでいて、革細工や靴、鉱物から作られる宝石、それから綺麗に編まれた布から出来た服などに、理子さんは目を輝かせてあちこち見て回った。

彼女は小さな石細工を売っている店の前でちょっと立ち止まり、体を屈めて石を見てから、僕の元に戻ってきた。

その顔はちょっと残念そうだったけど、綺麗なものを見た後の彼女の表情は、和やかで優しかった。

「何、見てたの?」

「あ、その、なんでもないんです」

「僕にも見せてよ」

僕がそう言うと彼女は、雑貨屋の前に並べられた、青く輝く不思議な石を僕に見せてくれた。

それは中でちらちらと小さな光がいくつも飛び交っているように見えて、見ていて飽きない石だった。

「へえ。どこで採れたんだろう、こんなの。綺麗だね」

「え、ええ…」

彼女はどこか気が引けていたようだったけど、店先でじろじろと売り物を見ていた僕たちに、店主が声を掛けてきた。

「買うのかい、買わないのかい。英雄さんよ」

僕はすぐに、「買います。おいくらですか?」と聞いて、その石を彼女に渡した。

愛想のない職人気質な店主に「どこで採れたものなんですか」と聞いてみると、彼は「井戸を掘る時にぶちあたった、でかい層さ」と答えてくれた。僕はそれを聞いて、「あんなに綺麗な石がそんなにあるのか」と、またこの世界に驚いた。


理子さんの元に戻ると、彼女はしばらく興奮したように石を手のひらの上で眺めていたけど、顔を上げ、宝石の光が乗り移ったように輝く瞳で僕を見つめた。

「ありがとうございます、とても綺麗で…嬉しいです!」

「どういたしまして」




僕たちはその日は武器屋などは見ずに帰ることにして、家路に就いていた。すると、彼女の胸元に下げられた「子の石」が、急に光り出す。

「お兄様!」

「わかってる!僕は兵舎へ向かうから、これで!」

僕はもう走り出していて、彼女が「お気をつけて!」と叫ぶのが、後ろから聴こえていた。