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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

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時々に闘いに呼ばれれば、僕は渾身の力を揮い、兵士を鼓舞して自分が最前線に立った。

第一班は元のように襲い来るモンスターを切り裂き、焼き尽くし、遥か空から地面に叩きつけて退治した。傷ついた時には、残る一人が癒してくれた。

でも僕たちは、その自分の傷が治る時、全員が同じ事を考えていたに違いない。


“ヴィヴィアンの傷も、もしこんなふうに治せるものだったなら。”


それは拭い去れない影として僕たちの後ろに長く伸びて、僕たちは、彼女の残した「闘いは続いている」という言葉だけを頼りにして、闘い続けた。

彼女は本物の、兵士だった。



ヴィヴィアンだけでなく、少しずつ兵士たちは戦場から音もなく去って行った。

この間僕が聞いた話では、「ギフト」を授かる者は少なくなってきているらしい。兵長は苛立っていた。

このままでは、軍の人員は減っていくばかりだ。僕はそのことを案じていた。それに、日に日に襲い来るモンスターの力は強くなっていた。

議会からの命によって調査隊が組まれ、少しずつ調べは進んでいるものの、その調査に随行した軍人や、調査隊メンバーの犠牲者も少なくない。

それで議会では、軍人の随行者を補強することが必要だと、声高に叫ばれていた。



でも、僕には今、議会と軍がどのように連絡を取り合っているのか知ることは出来ず、これらの情報はすべて新聞から得たものだ。

議会では、「軍と議会とを完全に切り離して考え、軍は議会の命によって動くべきだ」という意見が出て、それを止める者が少なかったらしい。

現在では議会からの要請でない限り、議会の人間と軍の人間が同席することはなくなった。僕たちは少しずつ孤立していき、それでも闘いはやってくる。




重いため息をまた吐いた時、トレイに乗せたティーポットとカップがカタカタと鳴る音が聴こえ、小さな靴音と共に彼女が居間に入ってきた。

「お待たせしました、お兄様。窓側のテーブルの方はいかがですか?少し風に当たれば、目も覚めるかもしれません」

彼女は長いエプロンドレスの裾を控えめに揺らしながら、窓際にあった大きなテーブルにティーセットを並べていく。

「ああ、ありがとう…」

「まあ、暖炉の火が!少々お待ち下さいね、今薪を入れます!」

「いや、いいんだ。ティーカップをもう一客持ってきて、君も座ってくれない?」

僕がそう言うと、彼女は顔を赤らめて少しまごついていたようだったけど、黙ってティーカップを持って来てくれた。

「それでは、お言葉に甘えて、失礼します…」

彼女が遠慮がちに僕の真向かいに座る。

「ちょうど、話し相手が欲しくて。お茶は二杯分あるでしょう?…一人で飲んでも、つまらないから…」


でも僕は、何も話しはしなかった。五分、十分とおそらく過ぎて行っているのだろう時間を、まるで止まっているかのように感じながら、お茶を飲んで過ごした。彼女はじっと待ってくれていた。


窓から差し込んで来る陽の光が彼女の頬を白く透き通らせ、美しい黒髪にはまばゆい光の輪が出来ていた。

彼女の唇の半分は鮮やかなオレンジに染められ、光を受けている瞳はきらきらと輝いて、影となった方は静かに僕の姿を映す。

それは、変わらず美しかった。


「君と居ると、落ち着くよ」

僕はそれだけ言って、残りのお茶を飲んだ。彼女はそれで満足そうにいじらしく、微笑んでくれた。

「私は、お兄様の力になれれば、それで満足です」

そう言った彼女と、それを聴いた僕の間には、すでに言葉の無い約束があったかもしれない。

でも、僕の中には変わらず悲しみの嵐が吹き荒れ、それを自分で消化しなければという気持ちが、どうしても僕の心をまっすぐ彼女に向かわせてはくれなかった。