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ヒコマル参上 マゲーロ3

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ぼくたちが手を取り合うのをみて、アキヒコもミユキちゃんもそれにならって手を取り合う。
「うわ、なにこれ、いろんなことがわかってくるわ」
 ミユキちゃんはエージェントMから地下世界の仕組みを知ったのだろう。
「なるほどねえ、そいういうふうになってるんだ」一人で
感心している。
「今回は慣らしだから、数時間で頼むよ。後で交代依頼の信号を送るから」
マゲーロが言うと
「りょうかーい」
と三人のエージェントたちは地上に出ていき、ぼくたちが部屋に残された。
  
「そうそう、ヒコマルとやら、こんなものしかないが、ま、食べとけ」
マゲーロはポケットをまさぐると、何やら乾燥肉のようなものを取り出した。ヒコマルは匂いを嗅いでみて納得したのかかじりついている。
「なにそれ?」気になって聞いてみたが、
「とりあえずここで今手に入ったエサだ。空腹だから、とワンワン鳴かれては困るからな。エサの素材はあまり深く考えない方がいい」
と言われたので、それ以上追及しなかった。
「さて、これでようやくこいつの飼育場に行ける。」
 マゲーロは例のケースをポンと放り投げて片手でキャッチした。
 
 マゲーロが先頭に立って廊下をぞろぞろ歩くのはさすがに目立つんではないかと思ったが、「いいんだ、お前らはおれがつかまえた人間の子どものダミーなんだから、むしろ堂々としていてくれないと逆に怪しまれる」というので、そうすることにする。
 ミユキちゃんなど、先ほどまであれほどお上りさんのようにものめずらし気にキョロキョロしてたくせに、ちょっとスキャン室でうまくいったからって、すっかり慣れて勝手知ったふうに装っている。女子は適応能力にたけているとは聞く
けど、さすがの演技力だ。
 やがて明るい廊下の突き当りに扉が現れ、そこから先はマゲーロが身分証をスキャンしないと開かないようになっていた。
「こんなに厳重なのになんで逃げ出したりしたのさ?それにここ狭いから実物のハムスター大じゃ通りにくくない?」ぼくはマゲーロに聞いてみた。
「当然ここから脱走するわけないだろ。別ルートがあるんだよ」
 もそもそとつぶやいて扉を開けると、扉の向こうは廊下の延長で数メートル先にもう一つの扉があった。

「この先が飼育場だからここが調整室になってる」
 そう言ってマゲーロは次の扉をちょっと開けて見せた。
 扉の先は動物園みたいな檻が並んでいた。そしてそこには豚くらいの大きさのハムスターがばたばた駆けずり回ったりエサをかじったりしていた。
「えー、こんなおっきなハムスター、全然かわいくないわ」
ミユキちゃんはそう言ってから
「でも、さぞかし大きなあれをだすんでしょうね」
とニタニタしながら言った。
「ちがうよ、ぼくたちが縮んでることを忘れてるでしょ」
とぼくが水をさすと
「あ、そっか。なんだあ、たとえポケットにいれられてもごく小さなダイヤ…あれっ、違うわ、私たちこのままの比率で大きくなれるんなら、ポケット一杯はポ
ケット一杯のままなんじゃない?」
「そういえばそうか」
「地上でポケットいっぱいのダイヤモンドってすごくない?」
「そりゃそうだね」
とぼくも納得しかけていたら、マゲーロが
「おいおい、やばいこと言ってんじゃない。でも確かにそういう手段がなくもないか、だったらお前らに頼めばよかったんじゃん…あ、でもデカすぎると不自然で出所を疑われるからやっぱダメだな」
 後のほうはぶつぶつと独り言のように言った。
 そしてぼくらを振りむき、
「いいか、おまえらここで待ってろよ。本当はこいつの飼育の件は機密事項だし、
地上の人間は衛生上よくないんでな」
というと、さっと扉の向こうに消えてしまった。
「なあんだ、見せてくれないんだ。つまんないのー。ダイヤの一つも拾えるかと期待したのに」
ミユキちゃんは現金なことを言った。
 その時扉の向こうからマゲーロの
「あーっ!逃げたー」という叫び声が聞こえた。
「またかよ」思わずぼくがつぶやくと
「学習能力ないんじゃない」
ミユキちゃんは辛辣に言い放つ。
 その途端扉があいて真っ青(といっても元々がみどりなのだが)になってひきつったマゲーロが飛び出してきた。
「やばい、また逃げた。頼む、その犬に探させてくれ」
 
 
 13章
 
 こうしてぼくたちは禁断の飼育場に入らざるをえなくなった。ヒコマルに空のカプセルの中の匂いをかがせて、アキヒコが「ヒコマル、さっきのハムスター探して」というとヒコマルはしっぽをふって走り出した。
 ただ、ここはあの生物の飼育場なので、同じ匂いが充満しているはずだ。
 それでもヒコマルは今日何回も追いかけたあの小さな生き物の匂いがわかるのか、たどっていくようだった。
 周りは動物園のライオンの檻のようなものが立ち並び、中ではバカでかいハム
スターがこれまたどでかい回し車をがらがら回していた。
 ぼくはヒコマルを追いかけながら小声でマゲーロに聞いた。
「一体何やらかしたんだよ」
「カプセルから出すや否やサイズ変換装置で元に戻そうとしたんだよ。ところがふた開けた途端に逃げた」
 そりゃ逃げるだろうさ、ハムスターはちょろちょろしてるもの。
 だからぼくたちも協力したのに、一人でなんとかできると思ったんだろうな。
 ところが、
「あれ、マゲーロじゃないか、何してんだ?」
 飼育担当らしきちょっとぽっちゃりしたマゲーロの仲間が檻の脇から現れ、血相変えて走るマゲーロに声をかけてきた。そしてぼくたちをみて
「おい、いったい何やってんだ?」
といぶかしがるのも無理はない。
 ぼくたちが大勢でどたばた駆け回ったものだから、当然気づかれるし怪しまれる。マゲーロはこれを警戒したんだと分ったが、もうどうしようもない。
「逃げたんだよ、ダイヤネズミが。ちっこいままで。エージェントたちに手伝わせて探してんの!お前も手伝ってくれよ、トニー。」
ヒコマルを見失わないよう前を向いたままマゲーロが言った
「わかったよ、協力するよ。でもなんだってちっこいままで逃がすなんてへまをやったんだよ」
「それいうなー、とにかく探せー」
 全員でヒコマルを追いかけた。壁のすみっこでヒコマルが止まり、ワンワン吠
えた。
「ところであの吠える奴何?」
「ああ、ダイヤネズミを匂いで追う犬型エージェントだ。」
「ふうん。そんなのいたっけか?」
 トニーは首をかしげていたがあまり気にしない性質のようだ。
 それでとりあえずごまかせたらしい。
 その時、前方の壁の前でヒコマルのわんわん吠える声が聞こえた。皆で駆けつけるとハムスターは部屋の隅に追い詰められ、小さな穴をほじくって脱出口を作ろうとしていた。ぼくらが向かってくるのがわかったヒコマルは穴堀りに夢中なハムスターをさっと咥えた。
 そしてヒコマルは獲物を咥えて振り返り、嬉しそうにしっぽをふってみせた。
「よし、ヒコマルお手柄だ!」
 すかさずマゲーロがカプセルを差し出すとヒコマルは素直に獲物を落とし込んだ。瞬時にふたがしまり全員が大きなため息をついた。
「しかしマゲーロ、お前さんなんだってそいつを」
「だからあ、檻の中に手をいれて開けようとしたのに、つるっと滑って檻の外側に落としちゃたんだよ」