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ヒコマル参上 マゲーロ3

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「そういう作業は誰かに手伝ってもらって慎重にやらないと。おいらに声かければよかったのによ」
「わかってるって。トニーがいると思わなかったんだよ」
「飼育室で無人はありえないだろが。なんかやらかしたんだろ」
「外に逃げたのをやっとつかまえてきたんだ。」
「なんで逃がすようなへまを?」
「放牧場から脱走したやつだよ」
「ああ、あの最近閉鎖されたチューブのそばのあれか。あの辺り、工事で穴あけられてきて放牧場も閉鎖になったよな。」
「そうそう、それで追い立てるの手伝ってたんだが、おれが担当してたやつが突如暴走して」
「なるほどなあ」
マゲーロたちの会話でなんとなく事情が分かったが、マゲーロの言葉がどこまで真実かは知れたものじゃないな。ま、トニーとやらはそれで納得したらしいからいいか。


14章

そんなこんなで、ぼくたちはそそくさと最初の部屋に戻ってエージェントたちと交代すると、チューブに乗り込んだ。
 帰り道は当然ミユキちゃん家の木の根元にでてくるルートだ。
 ミユキちゃんのお母さんは記憶操作でぼくたちは庭で犬と遊んでいたと思い込んでいる。
 今ぼくたちはミユキちゃんの部屋で発端となったケーキを食べながらマゲーロと話しているのだ。
マゲーロに言わせると、あの騒ぎを目撃したのがちょっとトロくさいトニーだったのが幸いだそうだ。あまり気にしないしすぐに忘れるタイプだそうだ。
「かなり危ない橋を渡ってんだよ、おれたちは」
 それは、そうかもしれない。でも原因を作ったのはマゲーロのほうだけどね。
「一体あのハムスターでなにやらかそうとしたのさ?」
ぼくはきいてみた。
「まあ、やつを追うときあえてしんがりを務めてだな、後ろの安全を確保しつつ、廃棄物の処理を…」
「またわけのわかんないことを言ってる」
ミユキちゃんが横やりをいれた。
「ま、平たく言えば、糞を拾おうかと」
「きゃー汚い!」
「うんこったってダイヤだぞ、汚くないわ」
「だからそのこすっからい根性が汚いって言ってんの」
ミユキちゃんは容赦ない。
「それは、まあ否定できないが…」
マゲーロは視線をそらしてそっぽをむいた。

  要するにセコイことをしようとしてしくじったという、マゲーロがよくやる失敗の一つらしい。巻き込まれてあたふたするこっちはたまったもんじゃないや。でもミユキちゃんが仲間入りしてくれたのはちょっとうれしい気がする。
「しかしタカとアキの知り合いの家に出入り口があったとはなあ。このエリアは
管轄違うから行ったことなかったんだが、今後はこっちを使うことになりそうだ」腕組みしながらマゲーロが言う。
「じゃあまた連れてってよ、地下」
ミユキちゃんが身を乗り出した。するとマゲーロは
「まあ、なんかあったらなー。じゃおれ帰るわ」
と立ち上がり
「じゃな」
というとあっという間にどこかに行ってしまった。
「ええっもう行っちゃうの?なんだあ、つまんないのー」
ミユキちゃんは立ち上がって周囲を見回したり窓の外を覗いてみたりしていたが、「これ片付けなくっちゃ」とハムスターのケージを持ち上げた。
すると何かキラッと光るものが畳に落ちて、アキヒコの前に転がってきた。
「あ、うんこだ」

 アキヒコが拾い上げたそれはママの指輪についてたものの倍は大きいダイヤだった。そもそもこれがハムスターを逃がした原因だ。
「ミユキちゃんが飼ってたハムスターのだからミユキちゃんのだよ」
とぼくが言いかけると
「当然よ!」とミユキちゃんが手を出したのでアキヒコはすんなりミユキちゃんの手のひらに「はい、うんこ」といってそれを乗せた。
「どうして幼稚園児はうんこを連発すんのよ」といいながら
「ホンモノは輝きがちがうわあ」とうっとり眺めている。
 どうして女の子は宝石に目の色変えるんだろね。第一本物も偽物も、ちゃんと見たことあるのかあやしいものだ。
 というわけで、ご機嫌なミユキちゃんに送りだされて、ぼくたちはヒコマルを連れて家に帰った。
             
             
15章
             
「マゲーロ、また来るかな?」更地になった例の空地の脇を通りながらアキヒコがつぶやく。
「どうだろね」
ぼくたちはなんとなく自転車を止めて入口の穴のあったあたりを眺めるともなく眺めていた。
 あの入口はもう完全になくなってしまったに違いない。本当にもうこれっきりなのかなあ、とちょっと寂しく思う。でもミユキちゃんちの庭にあるのが分かっ
た以上、ぼくたちがミユキちゃんと友達であり続けている限り、またチャンスがあるはずだ。
 ミユキちゃんとヒコマルという新しいメンバーが加わって新たな冒険ができるかもしれないよね。
 その時ヒコマルが自転車のかごで「くぅーん」と鳴いた。
「ヒコマル、活躍したからおなかすいたんだね」
アキヒコが言った。そうだね、ヒコマルはほんとにお手柄だったよ。
 ぼくたちもおなかペコペコだったことを思い出した
春の夕暮れの空気が、やわらかに顔にあたってかすかにどこかの家の食事の支度の匂いがしてがぜんおなかがすいてきた。
「さあ、はやく家に帰ろう!」
ぼくは勢いよくペダルを踏みこんだ。
背中から 
「お兄ちゃん、待ってえ」
というアキヒコの声と「わん」と吠えるヒコマルの声が春風に乗って追いかけてきた。



(おしまい)







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