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ヒコマル参上 マゲーロ3

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アキヒコがあっさり答えると、
「な、なんだって!」
 マゲーロはただでさえ出ている目をさらにひんむいてのけぞった。
 
 
6章

「やつはな、つぶらな瞳でじっと見つめてくるが、うっかり目を合わせてしまうと潜在意識に働きかけられてやつに操られてしまうという、ものすごく危険な生物だ」
 空き缶に座ったマゲーロが言う。
「そりゃまずいよね。とはいえ、ケージに入れておいたらとりあえず逃げられないんじゃないの?」
 
 ヒコマルの散歩の途中だったので、マゲーロを胸ポケットに入れたまま、とりあえず通りがかりの公園の誰もいないベンチに座って、捨ててあった空き缶をひっくり返して椅子代わりにしてマゲーロを乗せたのだ。
 そこにヒコマルが興味深そうに匂いをかぎによってきたので、マゲーロはいつでも逃げられる態勢でしゃがみこんだ。アマガエルそっくりだ。
 アキヒコがヒコマルを抱きかかえたのをみて、ようやく安心したのか、マゲーロは話を続けた。
「だから、『開けろ、開けろ』って潜在意識に訴えるんだよ、そいつは」
 マゲーロは空き缶の上であぐらをかいている。まるでカエルの置物を飾ってるみたいだ。
「ミユキちゃん、かわいがってたよ。見つめちゃうよきっと」
アキヒコが言った。
「早く取り戻した方がいいよね」
「当然だな」
「どうしよう、電話して『明日ミユキちゃんの家の、ハムスター見せて』って言う?」
「そんな悠長なことしてられっかよ。すぐ追え!」
「無理だよー。今からなんて。とにかく今日は無理。ぼくたちは家に帰って夕ご飯だよ。とにかく明日ね」
「仕方ねえなあ。じゃ明日の朝、お前んちの窓のところに行くからな。すぐ出かけるんだぞ。」
「わかったよ」
 その夜ぼくはミユキちゃんの家に電話し、明日ハムスターを見に行きたい、と頼んでみた。
 ミユキちゃんのほうは問題ないらしい。
「ヒコマルも連れてきてよ。お母さんに会わせてあげたいの」
 ヒコマルの母犬、ミユキちゃんのお母さん、両方の意味らしい。
 いきさつを話すとお母さんは手土産にバターケーキを焼いてくれた。
 問題はどうやってハムスターを回収するかだ。
 ペットショップで替わりのハムスターを買うお金はないし、正直に話しても信
じてもらえないだろうし、マゲーロってばなんて面倒なミッションを押し付けてくれるんだろ。マゲーロは準備はしとくと言ってたけど。
                 
                 
7章
 
 翌朝早く現れたマゲーロは、ぼくたちに渡すものがあるから、あの空地の穴に顔を出せ、と言って去っていった。
 ヒコマルを連れて行くので自転車で行くことにして、まずはマゲーロの指示通りあの工事中の空地に行った。幸いにも日曜で工事の人がいなかったので、ぼくはヒコマルを抱いてアキヒコの手をとり誰にも見られずに穴に転げ込むことができた。
 サイズ変換装置でマゲーロサイズになったぼくは、そこで待っていたマゲーロにぶつかってヒコマルを投げ出してしまった。
「きゃん」
と吠えながら着地したヒコマルは大きなマゲーロを見てびっくりしたように飛びのき、クンクン匂いを嗅いでからおもむろに片足を上げそうになったので、ぼくは慌ててヒコマルを抱え上げた。いくら小さな犬になったからって、電柱扱いさ
れてオシッコされちゃあかなわないだろう。
「お、ちっこいとかわいいな、このワン公も」
 マゲーロは昨日まで食べられるかとヒヤヒヤしていたヒコマルに、今はすっかり上から目線である。
「待ってたぞ。これをお前らに渡したかったんだ」
 マゲーロは何やら片手に収まるくらいの小型扇風機のような装置を持っていて、ぼくに手渡した。
「これはこのスイッチを押すと、『記憶塗り替え電波』が発射され、今までのことがうろ覚えになる。そこですかさずうまくつじつま合わせの話をして相手の記憶に上書きするんだぞ」
「ええ、なんか難しいじゃん」
「とにかくなんか考えろ。ハムスターをつかまえたけど逃げちゃった、とか、動物は飼えないと言われて諦めてお前らに返すことにした、とか」
 なるほどね、そういうことか。ハムスターをぼくたちが連れにきた理由を作ってしまえということなんだ。
 
「それからこれな」
マゲーロは円筒形のペットボトルみたいなケースをよこした。
「これに、やつを入れてここを押しふたをすれば封じ込められるから」
 なるほど。これに入れて持ってこい、ということだね。
「お前らに捕獲してほしい理由はこれだ。やつはお前らにとってはハムスターほ
どの小動物かもしれないが、この世界では結構なデカさだ。たとえて言うならお前らにとってのライオンくらいあるんだ。だからこれに入れてお前たちが持ち込んでくれれば自動的にサイズも小さくなる。我々にとっても扱いが楽であるからな。こいつらの本来の飼育舎に戻してからサイズ変換できるから。」
 そうか、そういうことか。確かにハムスターといってもマゲーロたちにとっては自分より大きいくらいだもんなあ。
「だったらさ、小さいハムスターとしておいとけばいいんじゃないの?」
 ぼくはふと疑問に思って言ってみた。するとマゲーロは
「いや、こいつらはただ閉じ込めているだけではなく、用途もあるんだ。まあ家畜と言ったらいいか…小さすぎては困る事情があーっと、これ以上は機密事項!」
と手で口を押えた。ふうん、なんかあるんだね。
「捕獲の首尾が心配だからオレも行くからな。タカ、あとで胸ポケットに入れてくれ」
「いいよ、気を付けてね」
 ぼくたちは記憶塗り替え装置と捕獲ケースをリュックにしまい、変換装置を通過して穴の外に飛び出した。
 ぼくは自転車のかごにヒコマルを乗せると、お菓子の包みをかごにいれたアキヒコを従えて走り出した。
 マゲーロがポケットから顔をのぞかせて景色を見ようとするので
「ダメだよ、マゲーロ、人に見られたらどうすんだよ」
と注意すると
「それこそカエルのマスコットだと思われるんだろうさ」
と嫌味たらしく言うだけで聞きやしない。
 
 ミユキちゃんの家の近くの曲がり角で待っていたミユキちゃんがぼくらを見つけて手を振った。
「おはよう。地図だけじゃわからないと思って迎えにきたの」
 ミユキちゃんはめんどくさそうな顔をしているが、本当は親切なんだな。
「おはよう、ちょっと不安だったから助かるよ、ありがとう」
「ヒコマルようこそー。お母さんにあわせてあげるねー」
ミユキちゃんはヒコマルを撫でた。
「ミユキちゃん、ハムちゃんは元気?」
 アキヒコがたすねた。
「うん、昔のケージに入れておいてある。ママも懐かしいって回し車転がす姿をじっと見てたよ」
「じっと見てた?まさか目をあわせてないよね」
「はあ?ハムスターが目をあわすわけないじゃん」
「そ、そうだよね。大丈夫だよね」
「なにわけのわかんないこと言ってんの?はやく、うちおいで」
 ミユキちゃんはすたすた歩き始めた。
「あらいらっしゃい。この子がベスの仔犬ね。大きくなったわね」
 玄関にはいるとミユキちゃんのお母さんが立っていて、ぼくが抱いていたヒコマルを撫でた。
 下におろすとヒコマルは不思議そうにあたりを嗅いでいる。