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ヒコマル参上 マゲーロ3

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地図を持ってきてミユキちゃんの家を探すとバス停二つ分くらいの距離だった。自転車なら楽勝の距離だが学区が違うのでなじみがない。
 ぼくたちはバス停までミユキちゃんを送っていった。


4章
 
 アキヒコの提案で子犬の名前は「ヒコマル」になった。我が家の名前の法則にのっとったしりとりの結果である。アキヒコは自分に弟分ができたようでうれしそうだ。散歩も欠かさず行きたがるが、こんなちびに一人で行かせるわけにもいかず、お母さんは必ずぼくに一緒に行くことを義務付けている。
 たまにミユキちゃんも参加する。自分で捨てた犬のその後が気になるのだろう。アキヒコはミユキちゃんに会えるのもうれしいらしい。
 そんなわけで、春休みは毎日犬の散歩である。面倒といえば面倒なのだが、ぼくとしては散歩コースに組み込んだ例の空地の工事の進捗状況が確認できるので、あまり苦にはならない。ミユキちゃんが一緒の時は一応口止めはされていたので
空き地をちらりと一瞥するだけにとどめ、関心を持たれないよう気を付けた。
ところが、気を付けていたにも関わらず、ぼくはうっかり見てしまったのだ。
マゲーロが飛び出す瞬間を。
 普通は彼もそんなへまはしないはずだ。もっと慎重に周りをうかがってから動くはずだ。なにをそんなに焦っていたのだろう。
 ぼくが気づいたくらいなのだから当然弟は見つけていて、ご丁寧に「あっ」と指さしまでしてくれたので、ミユキちゃんの視線もそちらに行く。ヒコマルにい
たってはリードを振り切って駆け出してしまった。アキヒコが持っていたから引
っ張られて手を放してしまったのだ。
「なんなのよ、ヒコマルなんで走るの!」
 ミユキちゃんは慌てて走り出し、ぼくらも走った。幸いミユキちゃんはマゲーロの姿は見ていなかったらしい。
 しかしぼくらもアッという間にマゲーロを見失った。何かを追っていたようでもある。
 ただ、ぼくたちはヒコマルを追いかけねばならなかった。草むらに飛び込んだヒコマルが何かくわえて出てきたのでぼくはどきりとした。
 でもみどり色じゃない。よかったああ。
 それはなんだかネズミか何かに見えた。ヒコマルがしっぽをふってぼくのところにそれを持ってきた。ヒコマルはぼくをご主人と決めたらしい。よく見るとハムスターのようだ。ドブネズミだったら嫌だけど、ハムスターならかわいいからいいや。なんだかわからないが、とりあえず受け取ってみた。
 ミユキちゃんとアキヒコがのぞき込む。
「わあ、かわいい、これゴールデンハムスターじゃない?昔飼ってたことあるの。ペットショップで結構な値段で売ってるのよ。」
「そうなんだ。」
 ぼくはよくわからないのだけど、得したのかな、どうなんだろう。
「ハムスター、ようちえんでさわったことあるよー。かわいいよ」
 弟は幼稚園に来た移動動物園の話をした。ミユキちゃんはさかんにハムスターを撫でていた。
 「そうだ、ぼくたちにはヒコマルがいるから、ミユキちゃん飼わない?アキヒコもいいよね」
 「うん、ぼくヒコがいるもん」
 ミユキちゃんはパッと目を輝かせてから、すぐ横を向き仕方なさそうな声で
 「そうねえ、昔のケージがまだあったと思う。もらおっかな」
 と手をだした。この子はツンデレタイプなのか。
 こうしてヒコマルがくわえてきたハムスターはミユキちゃんのポケットに入れられ、ミユキちゃんのうちに連れていかれることになった。
 
 
5章

 ぼくらがバス停までミユキちゃんを送り、片手をポケットにいれたミユキちゃんが手を振るのを確認して帰途についた時、
「おいっタカ!」
かすかな声が聞こえ、アキヒコが
「あ、マゲーロだ」
すぐ近くの家の塀の上を指さした。
 そこにはみどりいろのカエルのフリしたマゲーロがやけに落ち着かなくきょろ
 きょろしていた。
ヒコマルがううっとうなっている。
 ぼくはちらっと周囲を見回し、手を伸ばすと、マゲーロはぼくの手のひらに飛び移り、ぼくはさりげなくシャツの胸ポケットにマゲーロをいれてやった。
「さっきはしくじったよ。お前らに見つかりそうになって隠れた隙に獲物を取り逃がした。」
「獲物って、マゲーロたちはなんか狩って食べるんだっけ?」
「食べるんじゃなくて、捕り物。やばい奴が脱走したから追ってたんだ。」
「なにそれ?」
「もちろん我らの居住区のエイリアンだ。水かぶると狂暴化するかわいい奴だ」
「ええ?それはもしやギズモとかなんとかいう」
「なんで知ってるんだ」
「パパの古いビデオにあった映画みたから」
「とりあえず水はうそだ。見てくれはかわいいといえばかわいい。でもとにかくやばいんだ。閉じ込めてあったんだ。それが脱走しちまって。とっつかまえようとしたのに、お前らがのこのこやってきやがって、こいつが目ざとく見つけてくれたから!」
 と、アキヒコをにらんだ。
「だってマゲーロいたんだもん」
「ああ、確かに慌てて無防備に飛び出したのは失敗だった。普通の人間なら目の
錯覚でごまかせるレベルではあったんだがな。アキがいるとは思わないだろ。で、もっと問題なのがそのワン公だ。なんでお前らが連れてる?」
「ああ、この子この前拾ったんだよ」
「ヒコマルだよ、かわいいでしょ」
 アキヒコがすかさず口をはさんだ。
「そいつさっきおれみてうなってたよな。おれを食おうと思ってんじゃないか?」
「まさか、うちはちゃんと子犬用高級ドッグフードをたっぷり食べさせてるよ。カエルなんか食べ物だと思ってないと思うけど。」
「おい」
 マゲーロがポケットから乗り出して
「ひとのことカエル呼ばわりするなって前にもいっただろが!」
 人間なら真っ赤になって、というところだが、マゲーロはみどりいろが若干濃くなって抗議した。
「あっとごめんね。ていうか、まあとりあえず食べないと思うよ」
 と言って、ぼくはしゃがんでヒコマルを撫でながら
「おい、ヒコマル、マゲーロはカエルにみえてもカエルじゃない。ぼくらの友達だ。なめてもダメだぞ」と言い聞かせた。
 ヒコマルは理解したのか、うなるのをやめポケットのあたりをクンクン嗅いだのでマゲーロはポケットの中で固まってしまった。
 すぐ立ち上がってのぞき込むと、マゲーロがプンプンしてるのがわかった。
「で、問題は、その脱走したやつの行方だ。お前らも探せ。それがミッションだ」
「ええ、いきなり!でもそれどんなやつなの?」
「白や茶色の毛が生えてて、おれくらいのサイズで、ネズミみたいな見た目。」
「なんかハムスターみたいなもの?」
「そうそう、ハムスターが一番似ている。」
「最初に言ってよ。もしかして、ヒコマルがくわえてたあれは」
とアキヒコを見ると
「ハムスターだったね。かわいかったね」
と同意した。
「まさか、お前ら、やつと接触してたのか?」
「うーん、そうかも。マゲーロ見つけて逃げちゃった時、ヒコマルが突進していって、なんかくわえてきたんだ」
「おいおい、つかまえてたんじゃん。おれはてっきりそのワン公に追いかけられているのがおれ自身だと思ってたから必死で逃げたぜ。で、捕獲した奴どうした?」
「え?捕獲って」
ぼくと弟は顔を見合わせ一呼吸した。
「ミユキちゃんがもらっていったよ」